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第二章 揺らぐ心、不確かな絆
其の16

 その名前にタツキは目を丸くするが、次の瞬間には嬉しそうに微笑んでいた。タツキにとってソラは、可愛い弟。自分が守るべき存在であり、何より彼の幸せな人生を望む。これは、一種のブラコンというものか。そのことも知っているクリスだからこそ、この提案をした。

 それは、見事に的中した。何ともわかりやすい性格であったが、クリスは笑うことはしない。何故、こうなってしまったのか――その理由は、痛いほどわかるからだ。あれを見れば、そうなってしまう。

「いいわ」

「否定は、しないよな」

「勿論よ」

 もし否定の言葉を述べるようなことがあれば、何か問題が発生した時だろう。だからこそ、計画が立てやすい。たとえソラが不機嫌な顔をしたとしても、タツキは無理に連れてくる。

「何処へ行く?」

「そうね。冬は、行く所が決まってしまうわ」

「できたら、他の惑星(ほし)は止めてくれ」

「わかっているわよ」

 仕事の関係上、クリスは近い場所を選ぶ。カイトスの休暇――特に能力を研究している者は、取るのが難しい。研究の対象は人間で、特に行っている行為に関係していた。知らない者が聞いたら首を傾げてしまうが、それは幸せ者の反応だろう。そう、あの光景を知らない方がいい。

「買い物か食事か……」

「それ、寂しいわよ」

「タツキは、何か考えているのか?」

「海を見に行く」

「おい、時期を考えろよ」

 この寒い時期に、好き好んで海に出掛ける者は少ない。それに、今は雪が降る季節。油断すれば、風邪をひいてしまう。それだけタツキ達が暮らしている地方の冬は、厳しいのだ。

「ソラ君は、平気よ」

「まあ、そうだな」

 ソラが以前に暮らしていた場所は、厳しい冬が有名であった。毎年のように大量の雪が積もり、春が訪れるのが遅い。数十メートルの雪の影響で外に出ることが難しく、人間が生きるには不都合な場所と言われている。

 そのような場所で、ソラは暮らしていた。その為、多少の雪は物ともしない。タツキはそのことを言おうとしているのだが、クリスにしてみたら困ってしまう。いかんせん、寒いのが苦手なのだ。

 クリスは、この惑星の生まれではない。別の惑星から仕事の為に、移り住んだのだ。そしてクリスの故郷の惑星は、温暖で過ごしやすい。よってこの寒さは、いつまで経っても慣れない。

 流石に寝込むということはなくなったが、冬に入ると体調を崩すのは決まってクリスだった。それは過労が重なってのことだろうが、体調を崩したのは自己責任。つまり、上は優しい言葉ひとつかけてくれない。

 そのことを涙ながらに愚痴るクリスであったが、タツキは笑って聞き流していた。こう見えて、タツキは体調を崩したことは滅多にない。よってクリスの苦労は、殆んどわからない。

「タフだよな」

「あら、貴方と一緒にしないで」

「そういう意味でのタフじゃない」

 野獣と呼ばれているクリスであったが、病気に関しては繊細な身体を持っている。逆にタツキは、体内に侵入したウィルスに簡単に打ち勝ってしまう、人間離れしたとんでもない免疫機能を持っているが、本人は気付いていない。だからこそ、雪が降っていようが海に行きたがる。

 しかし身体の弱い人間であったら、冬の海に行ったら間違いなく風邪をひいてしまう。海辺に舞う潮風は、肌を刺して冷たい。軽い風邪なら、まだいい。しかしそれが肺炎に発展してしまったら、数週間入院になってしまう。そうなってしまったら、いい笑いものだろう。


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