第二章 揺らぐ心、不確かな絆
其の12
「わかりました。此方こそ、急な電話ですみません。それと、トラブルって……ご無理をなさらないでください」
『有難う。では――』
それだけを言い残すと、電話が切られた。プツっという音を聞いたと同時に、イリアも電話を切る。
その瞬間、嬉しさが込み上げてきた。ユアンが了承してくれたということと、自分のことを心配してくれたからだ。特別な存在――無論、そのような感情はないだろう。しかし、嬉しいものは嬉しい。
イリアはベッドに倒れこむと、白い天井を見詰める。そして、今後のことについて考えていく。
――ユアンと何処へ行くか。
一番の問題は、これになるだろう。友人達に言わせれば「ユアンとなら、場所は関係ない」と言うに違いない。しかし、何事も演出が重要な位置を占める。いくら気にならないと言っても、混雑した場所では楽しむことはできない。それなら、どのような場所がいいのか。
正直、このような演出は苦手であった。それにより、イリアはいつも誰かの後をついていく。故に、今回もその身分となってしまう。よってこれに関しては友人達に決めてもらおうと、思いはじめた。
しかし、このような考えも思い浮かぶ。
――行き先は、ユアンに決めてもらおう。
これも他人任せになってしまうが「ユアンが決めた」となれば、文句が生まれることはない。何事も円満に済ませるのなら、これが一番だ。だが一応、友人達にも聞かないといけない。
(今から楽しみ)
就職前の思い出作りに、イリアの心は弾んでいた。
何より、ユアンの存在が大きい。
――やはり、良い人。
何事も嫌な顔をせずに引き受けてくれるというのは、器が大きい証拠。それを一部の人間に見習ってほしいと思うイリアであったが、それが誰なのかは敢て特定しようとは思わない。
だがそれが、甘い認識の中で生み出された考えとは気付いていない。よって、ユアンを簡単に受け入れていく。
何ら、疑問も持たずに。
◇◆◇◆◇◆
薄暗い明かりが照らす店内で、タツキは誰かと待ち合わせをしていた。コーヒーが注がれたカップを片手に、携帯を弄くる。どうやら待ち合わせの人物が、約束通りの時間に来ないようだ。
素早い指の動きでメールを打ち、そのまま送信をする。そしてコーヒーを飲み、気分を落ち着かせた。するとそれを見計らったかのように、約束の相手が現れた。走って此処まで来たらしく、肩で息をしている。
「遅い! 十分遅刻」
「悪い。抜け出すのに、時間が掛かった」
タツキの目の前に現れたのは、元同僚であるクリス・ハートラであった。同時期に同じ部署に配属されたという関係から、タツキが研究所を辞めてからも時々このように会っている。
クリスは能力研究の裏事情を知っている数少ない人物で、タツキと同じ考えを持っている。だからこそ、タツキにとっては話しやすい。何より、本音で向き合えるのが有難い。よって、愚痴を言い合える仲だ。それも、真顔で殺傷能力の高い毒を吐くので凄まじいものだ。
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