第一章 異端の力
其の3
「これからオレの家でコーヒーを飲む時は、砂糖とミルクを入れない……というのは可哀想だから、大量に入れるのは禁止。今回のことは、覚えておくように。わかったよな、カディオ」
「……了解」
「で、また飲むの?」
「いいのか」
「量が少ないのなら、許そう」
「うっ! そ、それは……」
そのように言われて素直に受け入れられるほど、カディオはコーヒーに関して譲れないものがあった。それはソラのようにブラックでは、飲むことができないからだ。苦いという理由から砂糖とミルクをたっぷりと使用しているらしいが、苦手なら飲まなければいいという考えもある。
しかしカディオは、コーヒー自体は嫌いではない。だからこそ砂糖とミルクで味を調整し、飲んでいるという。成人している人間が苦いのが苦手――まだまだ「お子様」であった。
「じゃあ、ソラ頼む」
突き出されたのは、床に落としたマグカップ。いくら綺麗にしているとはいえ、床に落ちたマグカップをそのまま使用するのは、衛生上いいものではない。このような鈍感さが、タフな身体を生み出しているのだろう。
ソラは渋々それを受け取ると、無言のままキッチンに向かう。そして、マグカップを綺麗に洗いはじめた。後ろから「洗わなくていい」というカディオの声が聞こえるも、ソラは無視をする。
「お前はいいが、オレは嫌なんだよ」
「潔癖症だな」
「潔癖症じゃない。普通だ」
洗い終わったマグカップを手渡すと、自分でコーヒーを淹れるように言う。その言葉にカディオは、渋々ながら新しいコーヒーを淹れはじめた。今度は、砂糖とミルクは少なめに。
「話は戻すけど、ふられたんだ」
「そ、そうなんだよ」
「結構、早かったね」
「それを言うな!」
突然の話の変更にカディオは、慰めてほしいという形でソラに飛び付こうとしていた。しかし、先程の一件が脳裏に過ぎる。それにより、飛び掛る寸前で固まってしまう。そしてゆっくりとした動作でマグカップをテーブルに置くと、近くに置いてあった椅子に腰掛ける。
「じゃあ、はじめから聞こうか」
「お、おう!」
「お前の話は長いから、簡略的に頼むよ」
「うっ! 痛い台詞」
ベッドに腰掛けるソラの姿に視線を向けつつ、カディオはソラからの圧力に耐えていた。相変わらず、その一言一言には刺が存在する。しかし、ここでめげるわけにはいかなかった。
何より、愚痴を聞いてもらわないといけない。
「例の彼女、知っているよな」
「知っているよ。写真を見せてもらったから」
「簡単に言うと、ふられた」
「それは知っている。さっき聞いたし」
「だ、だよな……」
相当のショックだったのか、なかなか本題に入らない。それどころか喋ることによって更にへこみはじめ、暗いオーラが漂っている。しかしそんなウジウジした態度を、ソラは許さない。
早く続きを喋るように圧力を掛けると足を組み、コーヒーを飲む。いつにない好戦的な態度を取るソラに、カディオは戦き思わずうな垂れてしまう。そして、ポツポツと語りだした。
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