第一章 異端の力 其の7 「笑っている方が楽だろ?」 「まあ、そうとも言えるな」 「なら、人生笑って暮らそう」 「暗くしたのは、何処の誰だよ。お前だろ? ほら、マウスを返せ。いつまで、使っている」 「何だよ。面白かったのに」 カディオをパソコンの前から移動させると、受信されたメールを開き読みはじめる。玩具を取られ愚図るカディオであったが、ソラは両耳を塞ぎ無視を決め込む。構ってくれないことに寂しさを覚えたカディオは暫く部屋の中を歩き回ると、何を思ったのか筋トレを開始する。 「何をしている」 「最近、身体が鈍っていて」 「だからって、人の家で運動をするな。お前の行動は、理解不能なことが多くて本当に……」 態とソラの視界に入る位置で、腕立て伏せを行うカディオ。その何とも目障りな光景にソラは、意図的に能力を使ってみせる。ピシっと音をたてて、何かが砕けるような音がした。 その音にカディオは反射的に周囲を見回し、何処から音が聞こえたのか探っていく。音の発生源は、すぐに特定することができた。それは、マグカップの取っ手が割れた音であった。 「運動は、外でやろうな」 「そ、そうだね」 この状況で能力を使用してくると思っていなかったカディオは、完全に油断していた。しかし能力の使用は、彼に「黙る」という行為を教える。口をつむぎその場で正座をすると、ソラがメールを読み終わるのを待つことにした。力関係は明白。カディオは、根本的な部分では勝てない。 急に、大人しくなったカディオ。その姿を見たソラは、彼がどのような用件で訪れたのか思い出していく。 好きだという女性にふられてしまい――だがいつの間にか、話はおかしな方向へ進んでしまった。これは毎度のことであったので気にしていなかったが、話を戻しカディオの恋愛事情を何とかしなければいけない。カディオの恋愛はどうでもいいが、このままでは可哀想だ。 ソラは読み途中のメールを閉じると、パソコンの電源を落とす。そして器用に顔だけカディオに向けると、中断してしまった先程の話について訊ねていく。するとその質問は禁句に近かったのか、カディオは正座したままの体勢で横に倒れてしまう。そして更に、涙を浮かべる。 「……忘れていたのに」 「お前が、筋トレをはじめるからだ」 「心の傷が……」 「今更、何を言う」 「相談は、終わった」 しかしソラは、否定していく。カディオの最終目的は、彼女を作るということ。しかしその過程に出会った女性には、玉砕し心を傷付けた。そして復活を遂げたカディオは、改善方法を求めてきたのだが、すっかり忘れてしまっている。そのことに、ソラは頭が痛かった。 「それなら、オレは出掛けるよ」 「なら、俺も行く」 「別に、ついてくる理由はない?」 「いいじゃないか。一人で行くより二人で行った方が、絶対に楽しいって。だから、連れていけ」 それは、自己を満足させる発言であった。完璧に寂しさを紛らわす道具とし、楽しんでいた。特に、ついてこられても問題はない。しかし逆に考えると、ついてくるだけの理由もない。 「面白くないよ」 [前へ][次へ] [戻る] |