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第一章 異端の力
其の16

「人生のアドバイスですか?」

「まあ、そのような感じかな」

 そう言うとユアンはソラの腕を掴み、人気のない場所に連れて行く。引っ張られる形でつれていかれるソラに手を振ると、カディオはイリアに話しかけた。どうやら、ナンパに近いことを行うようだ。

 一方、ユアンに捕まったソラは不機嫌な顔をしていた。会いたくもない人物と二人きりというのは、彼にとっては苦痛の何物にもない。よって目を合わせることを行わず、視線は楽しそうに会話をしているカディオとイリアに向けられていた。しかしユアンは、関係ないとばかりに話しかけてくる。

「相変わらずだね」

「オレは、貴方のことが嫌いですから」

「君に、拒絶されるようなことを行った覚えはない。寧ろ、協力をしていると思えるが。違うかな」

「貴方がそのように思っていても、オレにはあります。いえ、オレ達と言うべきでしょうか……ラドック博士」

 敵意が込められた声音に、ユアンは余裕綽々な表情を見せる。相手を威圧する台詞であっても、彼にしてみれば馬耳東風。それに悪意ある言葉であろうとも褒め言葉として、受け取ってしまう。ある意味で、強い精神力の持ち主。しかし、これでなければカイトスは勤まらない。

「僕は、君達の為に研究を行っている」

「違う。自分達を満足させる為だ」

「心外だ。僕は、他の奴等とは違う。力を持つ者のことも考えている。お陰で、君達は以前よりは過ごしやすいだろ?」

 ユアンの言葉は、正論に近かった。確かに、今まで多くの者達から差別を受けてきた。今もそれが残っているとはいえ、暮らしに支障を来すというまでにはいかない。此方から望んで迫害を受けるような行為を行わなければ、一般人と何ら代わりない生活を送れる。だが、本質は変わらない。

「感謝をしてもらいたい」

 ユアンが言っていることは、表面上だけを見れば正しい意見であった。ラタトクスについて理解を広めていくということは、並大抵の努力では行えない。しかし裏を返せば、表を肯定するだけの意味にはならない。所詮は、詭弁に等しい。そして、全てをひっくり返すだけの力はない。

 カイトスは、ラタトクスを研究している。理解を広める為には、そのものを知らなければいけないからだ。だが研究は、彼等の為に行っているものではない。研究――いや、正しくは実験だろう。

 カイトスという生き物は、物事に熱中しやすい。それはいい意味も悪い意味も両方含まれており、能力研究を行っているカイトスの場合は後者となることが多い。故に、ソラはユアンを嫌う。自分の身体は、実験道具でも材料でもない。それに、このことで多くの仲間が死んだ。

「感謝……多少はしてあげてもいいです」

「ふっ! 強気だね」

「弱気では、生きてはいけません」

 ラタトクスは、常に自分を強く持っている。少しでも弱さを他人に見せたら、其処をつかれてしまうからだ。お前達は――吐き捨てるように言われる言葉に押しつぶされ、己を見失う。

「僕達が支えてあげるよ」

「結構です」

「いつになったら、僕達を受け入れてくれるのか……本当に、寂しい。気持ちが伝わらず、悲しいよ」

 態とらしい溜息をつくと、ソラを見詰める。だが、やはりソラは視線を合わせようとはしない。

 再び溜息をつくと、話題を変えることにした。このままこのやり取りを続けていても、同じ台詞のやり取りになってしまうからだ。しかし変えられた話題は、ソラの神経を逆撫でするものであった。所詮、犬猿の仲同士。冷静に装っても、何処か牽制し合う。そして、負けるのはソラの方だ。


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あきゅろす。
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