第一章 異端の力 其の13 「女性が、そのような言葉を使ってはいけない」 諭すように、言葉を述べていく。彼女にとってユアンは、尊敬の対象。そのような人物から言われたら、素直に従うしかない。そして何より、見られたくない人物に見られてしまった。衝撃は思った以上に大きく、彼女の顔から血の気が引いていく。最終的には、真っ青になった。 「そう、女性は淑やかの方がいい」 その言葉に注意を受けていた女子生徒だけではなく、周囲にいた女子生徒全員が同じ反応を見せる。一瞬にして、周囲から音が消えた。それに心当たりがあったのだろう、皆恥ずかしそうにしていた。 「凄いな」 「いつもこのような感じだよ」 「はあ、羨ましい」 異性だけではなく同性をも引き込むユアンに、カディオは素直な感想を述べていた。だがソラは表情を変えず、ただ目の前の光景に視線を向けているだけ。この光景は、見慣れていた。 「人気者は、違うね」 「カディオも尊敬しているんだろ?」 「尊敬というか、凄いと思っているだけだよ。ほら、若くして高い地位にいるというところが」 「 ラタトクスにとってカイトスは、一種の天敵のようなもの。故に、ソラはカイトスという生き物を嫌っている。だが、一部の人間は異なる。タツキのように、信頼できる人物もいたからだ。 「俺がラドック博士を尊敬していると言ったら、お前はどうするのかな? 嫌がるだろうな、きっと」 「別に、大丈夫だ。別に、裏側が変わるわけではないんだし。カディオは、カディオのままだ。それに、職業は今と同じだろ? このようなことで転職は考えられないし、何より難しいよ」 カディオは、カイトスではない。よって、そこから何かを得るとしらた微々たるもの。しかしその道の者として尊敬しているというのなら、何らかの影響があるに違いない。だが、彼はユアンではない。よって、全てを真似することは不可能に近かった。何より、持っている物が違う。 尊敬――つまり、対象となる人物に近付きたい。だが、カディオの場合は「尊敬」と言っても、冗談に近かった。女性に好かれ、浮名を流したい。いわゆる人間が持つ「欲」の面で尊敬しているのだ。それ以外は、関係ない。それにラタトクスを虐めるほど、零落れてはいない。 「あれ? わかった」 「当たり前だ。カイトスになれるほど、頭が良いわけじゃないし」 「厳しいな」 「でも、そうだろ?」 特に、反論はなかった。どうやら、図星のようだ。体力派のカディオ。何でも物理的要素で解決してしまう辺りが、知識の低さを露呈していた。それに、難しいことはソラに任せてしまう。 「おや? どうしたのかな」 女子生徒への話が終わったらしく、ユアンが二人のもとへ帰ってきた。しかし、いまだに人垣が消えることはない。寧ろ先程より、人数が多くなっていた。それと同時に、ソラとカディオに痛い視線が注がれる。どうやらユアンと一緒にいることが、気に入らないようだ。 二人は、ユアンと同性同士。異性ではないので、恋愛関係になったりしない。しかし、同性であっても気に入らないものは気に入らない。その証拠に、鋭い視線を向けている大半が女子生徒だった。 ふと、ユアンが後ろを向く。その瞬間、二人に視線を向けていた生徒達が一斉に笑い出す。その笑みにユアンは手を振ると、再び後ろを向く。その瞬間、生徒達の表情が一変した。 [前へ][次へ] [戻る] |