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第一章 異端の力
其の12

 どのようなことがあろうと、全てを受け入れる器の大きさを見せ付ける。本当に、公私の使い分けが上手い。だからこそ、ここまで人気がある。ソラにとってそれは、一生無縁なことであった。




 人気のない場所から、急に賑やかな場所に出る。先程とは一変、多くの生徒の姿が見受けられた。その光景にカディオは感動を覚えたのか、ユアンに何度も感謝の言葉を述べていた。

 まさに、迷宮からの脱出。そのことにはしゃぎだしたカディオは、再びナンパを試みようとする。しかし、寸前でソラに止められた。また同じようなことをすれば、今度は間違いなく通報が行く。そして、世話になりたくない場所へ連れていかれてしまう。最悪の場合、数日間は閉じ込められる。

「お前が捕まっても構わないが、巻き添えは困る」

「それ、痛いな」

「そうでもないさ。オレにとっては、普通だよ」

 すると、そのやり取りを聞いていたユアンが「仲がいい」と、言ってくる。その言葉にカディオは照れた一面を見せるも、逆にソラは嫌な生き物を見るような視線をカディオに向けていた。友人同士、仲がいいというのは当たり前。しかしユアンが言うと、嘘に思えてしまうからだ。

「真に受けるな。社交辞令だよ」

「嘘っ!」

「そんなことはない。僕は、社交辞令は言わない主義でね」

「ほら、そう言っているぞ」

 ユアンを完全に信頼しきっているカディオは、ユアンの台詞を疑おうとはしない。人は嘘をつく場合、必ず何処かで襤褸(ぼろ)を出す。しかし、ユアンはその襤褸さえ隠してしまう。話術の天才というべきか、それを知っているソラは言葉の他に態度そのものまでが社交辞令に思えてしまう。

 ふと、周囲から熱い視線が注がれていることに気付く。見れば多くの生徒が立ち止まり、ある一定方向を見つめていた。そう、彼等の目的はユアンである。黄色い悲鳴を上げるも者いれば、嬉しそうな態度を見せる生徒もいる。相変わらずの人気ぶりに、ソラとカディオは言葉が出なかった。

「あー! あいつは」

 その時、黄色い悲鳴を消し去るような大声が響く。その声に辺りが一瞬にして静まり、大声を張り上げた生徒に視線が向けられる。其処にいたのは、カディオがナンパをした生徒だった。

「まだいたのね。この変態!」

「げっ! 見つかった」

 女性が発するには相応しいとは思えない言葉を次々と述べていく女子生徒に、周囲は唖然となり別の意味でざわつく。その凄さに、ソラとカディオは圧倒されてしまう。だが同時に「変態」と言われたカディオは、不機嫌な表情を作っていた。何より彼は痴漢をしたのではなく、声を掛けただけ。

 それだというのに、ここまで大事にするとは――被害妄想が強いと感じ取ったカディオは、思わず頭を振ってしまう。しかしその態度が、逆に相手の神経を逆撫でする要因となってしまう。

 更に、女子生徒の声が大きくなっていく。こうなってしまうと、相手が疲れるまで喋らせるしかない。

「どうせ、何か目的があって声を掛けたのでしょ」

 喋り終わるまで待っているつもりであったが、そのように言われたら黙っているわけにもいかない。何より女子生徒の発言は、自分が作り出した妄想の産物。言い掛かりも、いいところだ。

 そして我慢の限界に達したカディオが口を開いた瞬間、ユアンがそれを制した。どうやら代わりに女子生徒に注意をしてくれるらしく、いきなりのユアンの登場に大声を張り上げていた女子生徒の動きが止まる。彼女は頭に血が上った影響で、周囲に誰がいるのかわからなかったようだ。そして彼女もまた、ファンクラブの会員。よって、動揺を隠しきれない。


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