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第一章 異端の力
其の11

「研究さ」

「研究?」

「此処とうちは、共同で研究を行っている。だから、アカデミーに僕がいてもおかしくはない」

 アカデミーは連邦と共同研究を行っていると、ソラはイリアから聞いたことがあった。それに、イリア自身も連邦に通っている。そのことは納得できたソラであったが、他にも疑問は存在した。

 それは、偶然すぎる出会いだ。

「怪しいと思っても、偶然だから仕方がない」

「そうですか」

 しかし、そのことを聞こうという気にはならない。たとえ疑問を投げ掛けたとしても、正確に答えてくれる相手ではない。するとブスっとした表情を見せているソラに、ユアンは別の質問をしてきた。それは先程の事件に関することを含めた、答えたくない質問であった。

「何故、君達が此処に?」

「ソラの幼馴染に、会いに来ました!」

「ああ、なるほど」

 特に、疑問を持っている様子はない。彼は、最初からイリアが此処に通っていることを知っていた。それに、ソラがアカデミーを訪れる理由はひとつしかない。つまり、聞く以前の問題だ。それだというのに、彼は質問を投げ掛けた。まさに、食えない人物としかいえない。

「で、どうだった?」

「それが、迷子に……」

「それは、大変だ」

 口をつむぐソラに代わって、カディオが今までの経緯と結果に付いて話していく。語られた内容に苦笑いを浮かべると、ユアンは案内を買って出た。予想外の提案にカディオは身体全体を使って喜びを表現するが、ソラは信じられないという視線を向けていた。そして、思わず睨み付ける。

「不満かね?」

「いつもの貴方とは違う」

「本来の僕は、此方が正しい。それに、このままでは本当に捕まってしまう。僕といる方が安全だ」

 その提案を断ることもできたが、ユアンが言っていることは正しかった。道がわからないというのもそうであったが、不審者として捕まるわけにはいかない。この場合、信頼が篤いユアンが側にいる方が何かと安全だ。そう判断したソラは無言で頷くと、渋々提案に従う。

「では、行こうか」

「はい。よろしくお願いします」

 爽やかな笑顔を見せると、ソラ達を案内する。その後姿を見つめつつ、浮かんだ疑問を整理していく。
彼は、何をしに此処に来たというのか。ユアンは偶然と言っていたが、理由もなしに訪れるような場所ではない。

 ――偶然ではなく必然。

 そう考えると辻褄が合うように思えたが、相手は食えない人物。何より行動が読めない。それは毎回のことであったが、今日はやけに気に触る。嫉妬――まさに、その言葉は似合っていた。

 ふと、カディオの声が聞こえる。それは、ついてこないソラを呼ぶものであった。このまま無視をして一人で帰る。それも選択肢のひとつであったが、提案を受け入れたからにはそれはできない。

 二人のもとに向かうと、遅れてしまったことを謝る。そのことにカディオはご立腹の様子であったが、ユアンは先程から笑みを崩さない。「構わない」と一言だけ告げると、再び歩き出す。

 ――嫌な人物。


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