第一章 異端の力
其の9
「どうする? 不審者君」
「それは、お互い様だろ」
「オレは、無罪だ。ナンパをしていた、お前が悪い。責任を取れ。オレを巻き込むな。大事になったら、どうする」
「その時は、その時だ」
危機感が感じられない言葉に、ソラは切れる寸前であった。そもそもカディオがナンパなどしなければ、このようなことにならなかった。好きな女性がいるというのに、軽い性格。いつか痛い目に遭うと思っていたソラであったが、まさかそれに巻き込まれるとは――まさに、最悪であった。
しかし、今更後悔しても遅い。
「行くぞ」
「えっ! 俺達は不審者じゃ……」
「こんな場所に、いつまでもいられるか」
その言葉が示すように、数多くの生徒が此方を見ていた。図太い神経の持ち主のカディオであったが、この光景には驚いた様子。互いに目で合図を送ると、その場から逃げ出していた。
「あれ? 此処って一体」
目的を定めずに走っていたことにより、どの方向へ向かって走っていたのかわからなくなってしまう。此処はアカデミーの敷地内ということ以外、情報はない。何か目印になるものがないかと探すも、それらしき物は存在しない。どうやら、本当に迷子になってしまった。
「どうする」
「オレに聞かれたって、わからないよ」
この一体は先程とは違い、緑が多くとても静かな場所だった。アカデミーの関係者に駐車場の場所を聞こうと思うも、人が全く歩いていない。その時、カディオから「適当に歩き適当に探す」という提案がされるが、ソラ即答で却下した。そのようなことをしたら、更に迷子になってしまう。
「本当に、誰かいないのかな」
「そう都合がいいことは、ないよ」
「それは、わからないぞ」
カディオは身体を回転させながら、周囲に誰かがいないか探していく。ふとその時、何かとぶつかってしまう。だが後ろ向きであった為に、何ぶつかったのかはわからない。カディオは慌てて振り返ると、ぶつかった対象を見る。するとその瞬間、カディオの瞳が輝いた。
「大丈夫かな」
「大丈夫です。おお、人だ」
カディオがぶつかった相手は、何と人間であった。それも、二十代後半の男性。その者は知的というイメージが似合い、爽やかな印象を持っていた。男は、アカデミーの生徒とは違う。なら、教授だろう。
「部外者だね」
「わかりますか?」
「怪しい人物に声を掛けられたと、生徒達が騒いでいたのを聞いた。それは、君だったのか」
どうやら、恐れていたことが現実となってしまった。カディオは苦笑いをしつつ頭を掻くと、深々と頭を下げた。そして自分自身が行ってしまったことを、洗いざらい喋っていく。
「僕に謝られても困る」
「あれ? 此方に勤めている方じゃ……」
「おい! 何をしている」
カディオの言葉を遮るように、ソラの声が響く。行方不明になったカディオを、捜していたようだ。
「ソラ、関係者を発見!」
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