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第一章 異端の力
其の7

「で、彼女は結婚した」

「何で、わかったんだ!」

「う、嘘」

 無論、ソラは何も知らない。適当に言った言葉が、偶然急所を突いてしまった。顔を両手で覆い、肩を震わすカディオ。こうなると、どのような言葉を掛けていいのかわからなくなってしまう。ソラは腕を組みながら、適当な言葉を探していく。そして、ひとつ思い付いた。

「子供と、幸せに暮らしているよ」

「そうだよ。二人目が産まれるらしい」

 元気を出してもらうと思って言った言葉は、逆効果を生み出す。二人目の出産が近いとは、何と間が悪い。それに余程その女性に未練があるのか、泣き崩れる姿が痛々しい。人生最大の失恋を味わったのだろう、しかしカディオの立ち直りは早い。その証拠に、ソラはこの話をはじめて聞いた。

 その恋愛が何年前の出来事なのかは、不明であった。しかし今は、別の女性を追い掛けている。恋多き男というのは、伊達ではない。すると、予想以上に早い復活を果したカディオは徐に前髪を掻き揚げると、ソラに食って掛かる。だが、逆にそれが惨めな一面を生み出してしまった。

「そこまで、言うな!」

「適当だった」

「かなり、痛かったぞ」

「まあ、気にするな」

 勝手に連れて来た仕返しとばかりに、ソラは刺のある言葉を発していく。予想外の反撃にカディオは、素直に負けを認めるしかない。体力面では勝るカディオであったが、口では勝てない。それだけソラは頭の回転が速く、何より弁論に長けている。勝ち目など、最初からない。

 しかし、恋愛の策略ではカディオが上手であった。

「で、どうするんだ?」

「行くに、決まっているだろ」

「だから、今は講義中だ」

 その言葉にカディオは人差し指を垂直に立てると、不適な表情を浮かべつつ横に振る。どうやら、何やら考えがあるようだ。だが碌でもない考えだと判断したソラは、思わず嘆息した。

 それは、カディオの計画が上手くいった試しが殆どないからだ。見つかって捕まり、そして晒し者になる。図太い神経の持ち主であるカディオなら、捕まっても笑っているだろう。しかし、ソラはカディオのような神経の持ち主ではない。それに、イリアがどう思うか。

 やはり幼馴染、その反応が気になってしまう。イリアは優しいように見えて痛い一面を有しているので、笑いは免れない。心配してくれるのならまだいい。しかし本当に笑われたら、ソラはへこんでしまう。

「部外者の立ち入りは、OKさ」

「関係者の場合だろ」

「様々な研究を行っている場所だ、怪しまれることはない。俺達は、関係者だと偽ればいい」

 それは、楽観的な考えであった。ソラは「やはり」という気持ちを表情で表すと、気楽な考えに嘆いてしまう。もう少しマシな考えであると期待していたが、予想通りに期待を裏切った。

 ソラは肩を竦めると、車から降りることにした。このまま押問答を繰り返しても、埒が明かない。こうなったら、覚悟するしかなかった。イリアに会う……気が重いソラであった。

「おっ! やっと行く気に」

「お前の付き添いということで行く」

「素直じゃないな」

「じゃあ、行かないぞ」

 真剣に返事を返してくるソラに、カディオは冗談だと言う。しかし、冗談には聞こえない。カディオの場合、どれが冗談なのか区別が付きにくいからだ。よって、全部が冗談だと捉えられてしまう。


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あきゅろす。
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