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第一章 異端の力
其の5

「適当に書いて、適当に提出すれば」

「そんなこと、できないわよ」

「イリアって、普段から真面目でしょ。それに真面目な人が懸命に頑張って卒業しても、努力が報われることは少ないのよ。逆にいい加減に授業を受けておきながら、有名になった人物もいるらしいわ」

 クラスメイトが言っていることは、正論であった。イリアのように真面目にアカデミーに登校している生徒もいれば、そうでない生徒もいる。しかし、必要な単位と出席日数。そして卒論を提出すれば、卒業できてしまう。

 こうなると、真面目な生徒が報われない。それどころか、自由に行っている生徒が得である。アカデミーはカイトスを目指す者が学ぶ場所であるが、学ぶ生徒側は他の学校と何ら変わりない。

 ――アカデミーに真面目に通う理由は。

 そのように問われて、正しく返答できる者は少ない。就職活動に出席日数が関係するが、欠席が多い生徒が有名な研究所に就職したという話を聞く。よって「真面目」という言葉は古臭い。

 所詮は、実力主義。そのようなことを見てきたイリアにとって、これが正しい世の中のあり方だと思っている。だからこそ、卒論の手抜きはできない。だが、現実は思っている以上に厳しい。

「先程と考え方が違う」

「それは、時と場合よ。あの二人を見ていると、腹が立ってしまうの。私達が、真剣に勉強をしているというのに。彼女達は、論外よ。同じ土俵で考えてはダメ。もともとやる気がないのだから」

 言い訳に近い言葉であったが、イリアは頷くしかない。だが、論外という言葉の意味はわかっていた。たとえ不真面目な態度を取っていようとも、アカデミーの生徒は懸命に勉強をしている。

 しかしあの二人は、それさえ怠っていた。

「そういうことだから、これで提出しちゃうなさいよ。これだけシッカリ書いていれば、大丈夫」

「怒られるわ」

「その心配はないわよ。それにいい加減に書いている生徒は、毎年数人はいるらしいわよ。どうせ見つかって注意を受けるのは、そういう生徒に決まっているし。だから、提出しちゃいなさい」

 その自信は、何処から生まれるのか。ある程度アカデミーの内情を知らなければ、無理だろう。だがこれは、広く張り巡らされたネットワークが関係していた。生徒同士のやり取りは、思った以上に情報価値が高い。重要な情報を得た場合、瞬時にネットワークによって大勢の生徒に広まっていく。

 無論、教授達は知らない。よって、裏で生徒が怪しいことをしていても気付かない。それはとても危険なことであるが、決してなくなることはない。それだけ、活用の機会が多いのだ。

 イリアは、そのネットワークの一部を知っている。もし全域を知りたいと思うのなら、裏に行くしかない。裏という言葉――知らない人間が聞いたら怪しい世界だと想像してしまうが、危ない世界ではない。

「だって、私は……」

「あのことを気にしているの?」

「う、うん」

「あれは、イリアは関係ないわよ。だって行きたいと言い出したのは、あの二人なんでしょ?」

 イリアが気にしている“あのこと”というのは、卒業旅行のことであった。いくら卒業に影響がないとはいえ、休む理由として相応しいものではない。「単位と出席日数が足りている」ということで両親は賛成してくれたが、本心はどう思っているかわからない。だからこそ、卒論はきちんと提出したいと思っていた。

「イリアは、被害者よ。行きたいのなら、二人で行けばいいのに。どうしてイリアを連れて行ったのかしら」

 そのように言われると、連れて行かれた理由が見つからない。旅行先では構ってもらえず、気紛れで一緒に遊んでくれた。それ以外は、別行動に近い。よって、楽しくも何もなかった。


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