第一章 異端の力
其の4
「うん。マジ」
「そ、そうか」
「嘘は、言わない」
「そうだよな」
その後、二人の間に会話はない。このように素直に返事を返されてしまうと、反論の言葉が見付からない。いくら言葉でイリアを否定の行動や性格を否定しようが、心の中は違うと思っていた。しかし、どうやら心の中も一緒のようだ。そのことに、カディオは悩んでしまう。
「いや、帰らない」
「どっちなんだよ」
「お前の言葉は信じない」
半分自棄になってしまったらしく、大声で叫ぶ。イリアに持っていたイメージが崩れたことが、余程悲しいらしい。全ての女性に愛を――カディオらしい考えであるが、女好きも大概にするべきだ。
好きだという女性にふられてしまったら、イリアに告白するつもりであったのだろう。意外に、その可能性が出てきた。ソラはフンっと鼻を鳴らすと、カディオの横顔を見つめる。イリアとカディオが付き合う――想像しただけで、笑いが込み上げてくる。そして、頭が痛い。
「な、何だよ」
「何でもない」
「そ、そうか。よし、ソラが何と言おうとも、俺はアカデミーに行ってやる。絶対に、行くぞ」
そのように宣言したところで、運転をしているのはカディオ。つまり本人の意思で、自由に行く場所を選択できる。よって、いちいち宣言されてもソラは反応に困るだけであった。
どうやら「一応、断りを入れておく」という気持ちがあったのだろう、カディオの額には幾つもの汗が滲み出ていた。その後、特に会話がないまま、車はアカデミーへと向かった。
◇◆◇◆◇◆
パソコンの画面を目の前に、イリアは渋い表情を作っていた。どうやら卒論が進まないらしい。図書室に置かれている資料のお陰で提出できるギリギリのラインまで書くことができたが、問題は内容が薄っぺら。見る人が見れば、図書室で調べたということがわかってしまう。
やはり、現物を見て調査する。これが一番大切なことだろう。しかし、今のイリアはそれができない状況にある。そう、お金がない。両親はケチだからと言っていたイリアであるが、本当のところは「プライドが許さない」という、変に強情な一面を持っていたからだ。
「イリア終わった?」
クラスメイトの質問に無言で首を横に振ると、大きな溜息をつく。このまま卒論を提出しても構わない。しかし、将来カイトスとして生活していくという信念がある。よって、中途半端は許されない。
すると、クラスメイトの一人がパソコンの画面を覗き見る。どうやら、イリアが書いていることが気になるようだ。一通り卒論を読み終えると、そのでき栄えに驚きの表情を作る。
「よく書けているじゃない」
「そんなことは……」
「この内容じゃ不満なの?」
「う、うん」
返事を返すイリアに、クラスメイトは肩を竦めていた。完璧主義とまではいかないが、イリアは研究に対して高い情熱を持っている。そのことは周囲も知っているが、ここまで強いとは思ってもみなかった。しかしカイトスを目指すには、これくらいの信念がないといけない。
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