第一章 異端の力 其の18 それは、自分が負の一面を多く持っているのだと考えてしまい、自己嫌悪に陥りたくないからだ。しかし、誰もが負の一面を持ち合わせている。だから、否定や拒絶などはできない。 「皆、彼氏はいる?」 「いないわよ」 「いたら、毎日のように研究はしていないわよ」 「イリアは?」 その言葉に、イリアは頭を振った。一瞬ソラの顔が横切るも、置かれている立場が悪い。するとそのイリアの態度に、クラスメイトはホッと胸を撫で下ろす。どうやら、一番に彼氏を作るイメージを持っているらしい。 「イリアが彼氏を作っていないということは、私達もまだ大丈夫ということよね。ふう、安心したわ」 「学生のうちは無理でも、就職したら何とかなるでしょうね。だって、職場は男の人が多いでしょ」 「その中から、素敵な殿方をゲット!」 女性が一番問題とする事柄は、やはり恋愛であった。たとえそれがどのような人物であったとしても、考えは一緒。それに彼氏が欲しいという素振りを見せていないイリアであっても、心の中では欲しいと考えている。しかし理想としている相手は、遥か彼方に存在した。 「ねえ……ファンクラブって、存在するの?」 「当たり前よ。規約が存在するのだから、あるに決まっているじゃない。イリアは、入会していないの?」 「う、うん。あるとは聞いていたけど、何処で運営しているのかわからなかったから。それに、表に表れないし」 その言葉にクラスメイトは満面の笑みを浮かべると、イリアを引き摺り何処かに連れて行く。方向は、図書室とは逆であった。何処に連れて行かれるのか、訊ねても応えてはくれない。 イリアは、引き摺られていくしかなかった。 「到着!」 「此方が、ファンクラブの本部になります。結構、目立たない場所にあるでしょ。大々的に公表しても差し支えはないみたいだけど、ラドック博士に迷惑はかけられないという理由から、こっそりとやっているみたい。でも、人数は凄いのよ。やっぱり、人気があるのよね」 半強制的に、クラスメイトに引き摺られつつファンクラブ本部として使用されている教室に入っていく。室内は思っていた以上にシンプルで、必要最低限の物しか置かれていない。 会員の入会と管理は、全てパソコンで行っているからだろう。しかし、室内には誰もいなかった。 「あれ? いつも誰かがいるのに」 「ロックもされていないなんて、無用心ね」 ユアンのファンクラブは、思っている以上に活動内容が広い。そして、会員申し込みの数も半端ではない。その為、本部を取り仕切る生徒は目の回る忙しさを味わう。しかし、今日に限って生徒の姿はない。 仕方がないので、イリア達は生徒が帰ってくるのを待つことにした。入会手続きを行えるのは、一部の生徒のみ。そう、本部を取り仕切る生徒達だ。そして、その生徒は僅か十人。 その生徒達が、数百人ともいわれている巨大なファンクラブを仕切っているという。改めてその規模に、イリアは驚いてしまう。これだけ巨大な組織となると、アカデミーでの発言権は絶大なもの。 それに比例して、ユアンの偉大な一面を再認識することができる。大勢を惹きつけるカリスマ性というべきだろう。天はニ物を与えずというが、ユアンの場合それに当て嵌まらない。ルックスは完璧で天才。そして地位も名誉も手に入れ、誰に対しても優しく接している。 [前へ][次へ] [戻る] |