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第一章 異端の力
其の16

 ユアンがイリアに「あのこと」を大勢の前で話したら、周囲はどのような反応を見せるか。憧れの存在を奪ったと認識され、意地悪される可能性も高い。そう考えると、逆に近付かない方が身の為だ。

 以前、ユアンと個人的に話していた生徒が虐められた。それは嫉妬心が関係していたのだろう、同性同士の争いほど、恐ろしいものはない。ユアンに話したり話し掛けられたりしたら、イリアも同じことをされてしまう。

 そう思った瞬間、身体が動く。イリアは一歩一歩遠のくと、騒ぎが治まるのを遠くで待つことにした。

 しかし同時に、研究所でのやり取りを思い出し恐怖する。

 もし、誰かがこのことを知っていたなら――

 嫉妬は怒りに変わり、イリアに矛先を向けるだろう。ユアンという人物は、それだけ人気があった。

 それに、時として暴力へと変化する。

(やっぱり、断るべきだったのかな)

 ユアンに認めてほしいという思いと、虐められたくないという考えが混同する。あの時は浮かれていたのでそこまで考えが回らなかったが、冷静に考えてみると敵を多く作る要因となってしまう。ユアンとの繋がりを持つには、かなりの覚悟が必要となり、イリアはまだ持ち合わせていない。

(まだかな)

 騒ぎは、一向に治まる気配がない。それどころか、先程より賑やかになってきた雰囲気であった。騒ぎを聞きつけ、他の生徒も集まってきたのだろう。普通の人間であったら、このような騒ぎは迷惑に当たる。それだというのに嫌な顔を見せないのは、やはり器の違いか。

 相手がソラであったら、そそくさと立ち去っているだろう。ソラはこのようなことに関しては無頓着で、相手の気持ちを理解していない。しかし、ソラに言わせると「押し付けの愛情はいらない」と、なる。

 これは、押し付けの愛情ではない。尊敬という対象で見ているだけであって、そのような感情が含まれているのではないが、返される言葉はいつも一緒。「そうなんだ」ただそれだけ。

 両者の違い。それは、感情を読み取る力。ユアンにはそれが存在し、ソラは欠落している。当初はそのように感じ取っていたイリアであったが、最近では見方が変わってきている。そう、イリアが知らない一面を有していると気付きはじめたからだ。それにより、不安感が付き纏う。

 イリアは物思いに考え事をしていると、女子生徒の落胆の声音が聞こえてきた。どうやらユアンが立ち去ってしまうようだ。仕事をしにアカデミーに訪れたのであって、女子生徒に会いに来たわけではない。軽く返事をしそれを別れの挨拶とすると、目的の場所に向かう。

 数人の生徒がユアンの後を追う素振りを見せるも、違う生徒に止められた。「ユアンの邪魔をしてはいけない」どうやら、決まりがあるようだ。ユアンが立ち去ったと同時に生徒達も帰っていくと思われたが、その気配は全くなし。互いに楽しそうに喋り、中には喜びを動きで表す者もいた。

「あっ! いたいた。もう、団体行動は乱さない」

 姿が見えなくなってしまったイリアを捜していたらしく、クラスメイト達が慌てて近付いてきた。しかし、怒っている様子は見受けられない。どうやら「素敵な人物に出会えて嬉しい」という感情が勝り、怒りが込み上げてこないようだ。それどころか、破顔を浮かべていた。

「だって、恥ずかしいから……」

「それ、イリアらしい答え」

「でも、本当にかっこいいわ。皆が憧れる理由、納得できるわ。物語に登場しそうな、人物ですもの」

 その言葉に、イリアを覗いた全員が妄想の世界に飛んでしまう。それは、この者達だけではない。ユアンの周りに集まっていた生徒が、皆同じ状況であった。傍から見れば、異様な光景。しかし、誰一人それについて突っ込む者はいなかった。それだけ、ユアンは人気がある。


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あきゅろす。
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