第一章 異端の力
其の14
「皆は、どのような目的で此処に入学してきたの? イリアは、生物研究だったと思ったけど」
その言葉に、イリアは無言で頷く。それを見たクラスメイトは笑みをこぼすと、次々と極めようとしていた分野を答えていった。さすが、明確な目標を持っている者達。言葉には、力強さが感じられた。
「私は、イリアと同じ。でも、ちょっと方向が違うけど。だけど、基本はイリアとは変わらないわ」
「研究じゃないけど、宇宙関連の分野を極めようと思っているわ。宇宙って、憧れるのよね」
「私は、地層学」
どの生徒も、それぞれ目標とする分野が存在する。やはり、あの二人だけが特別のようだ。
「他の人に頼んでいたら、分野はバラバラじゃない。共通の部分はいいとして、バレているわね」
「教授達も馬鹿じゃないわ。もしかして周囲が何も言わないだけで、こっそり何かを進めていたりして。そう思わなければ、懸命に勉強や研究をしている私達が馬鹿みたいじゃない。好き勝手に遊んで、他人に迷惑を掛けていく。そして、のうのうと生活を送る。許せないわ」
「退学してしまえばいいのに」
この言葉こそ、皆が思う本音であろう。クラスメイトといっても、名前だけの存在。確かに、同じクラスで同じ勉強をしている。しかしそれは共通で学ぶ科目だけであって、殆どの場合、個人が選択した科目にわかれてしまう。それぞれの研究が異なるのも、その為であった。
同じクラスで学ぶ同士、たとえ選択科目が違っていても友人関係まで左右されることはない。それが本来の友情というものであって、あの二人のように押し付けがましい行為が友情ではない。
「そう、卒業前にね」
「どうせ、卒業の見込みはなしなんでしょ? なら、アカデミーを辞めたほうがいいと思うわ」
「あの二人、能力研究をしたいみたい」
イリアの発言に、クラスメイトは一斉に間の抜けた声を発す。互いの顔を見合い、時間が停止する。どうやら、呆れて物も言えないようだ。無謀――いや、世間知らずの馬鹿というべきだ。
「無理」
「夢見すぎ」
「理想と現実を把握していない」
一人ずつ述べていった言葉は、能力研究の厳しい一面を表していた。優秀な成績を修めている生徒でさえ、この分野に携わるのは難しいと言われている。イリアは二人に、このことを伝えるべきかどうか迷っていた。しかしそのことをクラスメイトに話すと、首を左右に振られ「聞くわけがない」と、言われてしまう。それだけあの二人は、他人の意見を聞き入れない。
クラスメイトは、イリアが旅行に無理矢理連れて行かれたということを知っている。そして、その時にあった出来事も知っていた。だからこそ、二人に対して冷たいまでの見方ができる。要は、異端に近い存在。そもそも二人は、アカデミーに相応しくない。よって、追い出したかった。
「仮に卒業しても、就職は難しいでしょうね」
「アカデミーで何を学んできたのか。そう聞かれたら、反論できないしね。知識がないもの」
「その前に、カイトスは無理ね」
「アカデミーの主になったりして」
二人は、卒業旅行に行く暇などなかった。イリアは単位・出席日数が足りているので問題はなかったが、あの二人はその両方を満たしてはいない。その中での卒業旅行。アカデミーの主になりたいというのか、その場にいる全員が思ってしまう。いや、意外にそうだろう。
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