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第一章 異端の力
其の13

「煩いわよ。いい子ぶって。私達の将来を邪魔しないでよ。それに、関係ないわ。口出ししないで」

「行きましょ。白けちゃった」

 そう言うと、イリアにカバンを乱暴に投げ返す。流石に、物を奪う行為は行わなかった。大勢が見ている中での盗みは、できないと判断したのだろう。その表情は、悔しそうだった。イリアは床に叩きつけられたカバンを拾うと、埃を払い散らばった中身を回収していく。

「ふう、都合が悪くなると逃げるんだから。ねえ、大丈夫? あの二人に関わるのやめたほうがいいわよ」

「う、うん」

「毎回、言っているでしょ。嫌なら嫌と言わないと。自己表現をシッカリしないと、ますます利用されるわよ」

「卒業までの辛抱だと思って」

「甘い! あの二人が諦めると思っているの?」

 無論、イリアはそのことをわかっていた。だが「もしかしたら」という微かな望みで、今までやってこられた。しかしこのように面と向かって言われると、そうなのかと思ってしまう。

 周囲に集まっていた生徒達は、二人が立ち去ったと同時に徐々に数を減らしていく。しかし、中には残っている生徒もいた。その者達は、イリアのクラスメイト達。どうやら心配になり、駆けつけてくれたようだ。そしてはじまったのは、二人に対しての愚痴であった。

「あの二人、何かやらかしたの?」

「懲りない人達よね」

 イリアの顔を見ると同時に、溜息をつく。被害者は、イリアだけではない。多くの生徒も、同じように迷惑を被っている。どうして留年せずに進級できたか――その明確な答えは、他人の協力があった。

 協力というのは、正しい言葉ではない。正しくは、強制的だ。つまり、先程のやり取りと一緒。自分達の都合の為に、色々と裏でやっているということになる。遡れば、入学当時から行っていたことになるだろう。そうしなければ、留年以前に単位の問題で引っ掛かる。

「取られた物はない?」

「大丈夫だと思う」

 取られた物は、特になかった。しかし“もしも”という場合があったので、イリアはカバンの中身を確かめていく。暫くした後、ホッと溜息がもれる。どうやら、取られた物はなかった。だが、気分はいいものではない。あの二人に私物を弄られ、何かを取ろうとしたのだから。

「今回は何?」

「卒論の為に、イリアのデータを盗もうとしていたらしいわよ。本当に、何もわかっていない」

「えっ! だってあの二人……」

「そう、何も研究をしていない」

 このアカデミーでは、どの生徒の何かしらの研究やひとつの分野についての勉強をしている。つまり、明確な目的を持って入学をしてきた者達が集まっているといっても、過言ではなかった。よってあの二人は、アカデミーの中では異質な存在。故に、浮いてしまっている。

「勉強は、していないわよ」

「前も、授業サボっていたわ」

「その前は、無断早退」

 ここまで平然と行われると、どのような目標を持って入学してきたのかわからなくなってしまう。此処は、目的を有した生徒しか受け入れないことで有名であった。入学当初はそれなりの目的があった……とは思いたいが、今までの行動を振り返ると怪しい部分が出てくる。

「どうやって入学したのかしら」

「それ、私も気になる」


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