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第一章 異端の力
其の11

 此処がアカデミーだということを説明しなければ、何処かの会社の研究施設と間違えてしまうだろう。それほど立派な場所にイリアは入学し、勉強をしてきた。今のところ、留年の経験はない。それは当たり前のことであろう、親がカイトスとして働いているのだからだ。

 その時、急にイリアは不機嫌な表情を作る。その理由は、目の前から苦手なアニスとディアーナが歩いてきたのだから。

「あら、おはよう」

「……おはよう」

「昨日は、大変だったみたいじゃない」

 どこで情報を収集したのか不明であったが、二人はイリアが研究室に行っていたことを知っている。そのことに、愚痴をこぼす二人。どうやら自分達より立場が上のイリアを、気に入らないようだ。

「いつものことだから」

「いつものこと……ね。ところで、例のテストはやってくれたかしら。私達、待っているのよ」

「……それは、まだ」

 追試の内容が、メールで送信されていたということは知っていた。だがイリアは、卒論を仕上げなければいけないという忙しい身分。正直、代わりに問題を解く暇などない。イリアから返された返事に、二人の表情が一瞬にして変わる。どうやら、提出期日が迫っているらしい。

「遅いわね」

「そうよ、私達が卒業できないでしょ」

 身勝手な発言を躊躇いもなく言う。どれだけ図太い神経を持ったら、このようになるのか。イリアは二人から視線を外すと、どうしてこのような人物と付き合うようになったのか考え込む。

 このような人物と付き合わなくても、仲の良いクラスメイトはいる。其方と付き合えばいいのだが、どこをどのように間違えたのか。卒業までの我慢と考えていたが、精神的攻撃に身体が参ってしまう。

「それと、卒論を見せてもらわないといけないんだから。本当に私達の為に、シッカリしてよね」

「その中に、卒論が入っていたりして」

「あっ! ダメ」

 イリアが抱えていたカバンを奪い取ると、勝手に中身を漁り出す。飛び掛りそれを取り返そうと思考が動くが、身体がそれに付いてこない。「何かされるのでは……」そのような恐怖心が、身体を支配していたからだ。それは、一種のトラウマというべきか。イリアの身体に、深く染み付いている。

「これって、卒論よね?」

 カバンの中から、一枚のディスクを取り出す。何も記されていなかったが、確かにそれは卒論のデータが収まったディスク。ささやかな抵抗なのか、イリアは答えようとはしない。

「別にいいわ。後で、中身を調べればいいんだし」

「ねえ、他に何かないの?」

「これって、どうかしら」

「珍しい物を持っているわね」

「貰っちゃおうか」

 ここまでくると、完全に泥棒である。このことが犯罪になるとわかっているのか、それとも理解していないのか。この二人の性格を考えると後者。理解をしていたら、このような行為は行わない。泥棒――いや、イリアにとっては別の見方ができた。追剥――そう、この言葉が正しい。

 周囲には、大勢の生徒が此方を見ている。しかし、誰一人として止めに入ろうとはしない。この二人の性格を知って敢えて止めないのか、それにしても冷たい人物が多かった。その時、人垣の中から聞き覚えがある声が聞こえた。その声に、イリアは反射的に視線を向けていた。

「な、何この騒ぎ」

 人を掻き分け現れた生徒は、クラスメイトであった。周囲を見回し、どのような原因で繰り広げられているのか確認する。すると、イリアのカバンを漁っている二人と目が合った。


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あきゅろす。
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