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第一章 異端の力
其の20

 そのように聞かれるが、ソラはそれを断った。話の終了と共に、すぐに帰るつもりであったからだ。それなら自分用にと、キッチンに行き紅茶を淹れる。その姿を見送ったマロンは、ソラの膝の上で巨大な毛玉となる。そんなマロンの背中を優しく撫ででつつ、ソラはタツキの後姿に向かい話しはじめた。それは、切なく悲しい物語。しかし、タツキは表情を変えない。

「こんな話をするのは何だけど、タツキに関してのいい噂は聞かない。皆、同じことを言う」

「あいつ等の言いそうなことね。別に、気にしていないけど。何とでも言えって感じかしら。好きなだけ言って、自らは手を出してこない。臆病なのよ。何かを行ったら自分が捕まると思っているらしく、常に怯えているし。今日は、そんなことを言いに来たわけじゃないでしょ?
 何か問題が起こったというのなら、相談に乗るわ。それとも、別のことかしら。どちらでもいいわ。アタシは、アナタの将来が心配なの。身体のことも……それ以外のことも。ねえ、ソラ君」

 それだけを伝えると、ティーパックを探しつつソラからの返事を待つ。しかし躊躇っているのか、ソラからの返事はない。だがタツキは、それを待つ。無理に聞き出していい答えではない。タツキは、ソラの心の中を理解しているつもりである。故に、強制は必要ない。

 すると、ソラは重い口を開いた。

 そして、消えそうな声音で話を開始した。

「……検査を受けろと、言われている」

「その時、どうするの?」

「オレが有無を言う前に、強制的に行うだろう。抵抗したって無駄だ。それに、最近の動向だって……」

 タツキは見つかったティーパックをマグカップに入れると、ポットから湯を注ぐ。熱い湯気と共に、紅茶の良い香りが漂う。そして一通りお湯を注ぐと振り返り、疑問を投げ掛けた。

「昨日、違う惑星から偉い人物が来たということは、知っているかしら。ニュースで、大々的にやってきたけど」

「ニュースは、見ていない。遅くに帰ってきたから」

「その来た人は、能力研究の影の出資者の一人よ。アタシも何回か会ったことがあるけど、胡散臭い連中だったわ。能力者を道具か何かと勘違いしていて、思い出しただけでも腹が立つ。アタシは、そんな連中に嫌気が差し辞めたの。本当は、辞めさせられてしまったけどね」

 そこまで話すと、紅茶を口に含む。すると「熱っ!」と、マグカップから口を離す。タツキは猫舌らしく、二口目は香りを楽しみつつゆっくりと飲む。だが視線は、ソラの顔から離さなかった。

「遅かれ早かれ、オレは殺される。それなら死ぬ前に、その出資者の顔を見たいと思っている。能力者を道具と思っている、奴等に……安心していいよ。復讐なんて、考えたりはしない」

「冗談でしょ! アタシがいた頃とは、内情は変わっているはず。それにアナタの力は、上にマークされている。下手な動きは、命を縮めるだけ。それに、アナタには生きてほしいのよ」

「確かに、実験は怖い。できるものなら、薬は投与されたくない。二度とあのような朝を……だけど、考えていたんだ。オレだけが、逃げていていいのかと。本当なら、あの時に死んでいた。それを助けてくれたということは、とても感謝します。でも、そのお陰で……」

「あれは、勝手にやったことよ」

「だけど……」

「いいのよ。気にしないで」

 全身を包帯で巻かれ、横になっていた姿。それを見た時、タツキは自分の愚かさに気付いた。一体、何の為にこんな酷いことをするのだろう。それまでは、カイトスなら誰もが憧れる能力研究ができると喜んでいた。しかし、理想と現実は違った。あの場所は、地獄だ。


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