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第一章 異端の力
其の18

(ご愁傷様)

 心の中で手を合わせると、建物の中でタツキが戻ってくるのを待つ。建物の中に足を踏み入れるとタツキのペットであるマロンがシッポを振り、足に擦り寄ってきた。ソラはマロンを胸元に抱きかかえると、頭を撫でてやる。撫でられ嬉しいのか甘えた声で鳴き、手の甲に擦り寄ってきた。

 マロンは、黒と白の毛並みの小型犬。だが生き物ではなく、ロボットだった。人工毛や人工皮膚を使い体温変化・感情もプログラミングされ、外見はまるで本物のようだ。餌を与えなくて良いところから、一人暮らしや老人の間で人気がある。そして何より、とても可愛らしい。

「マロン、お前の主人は凄いな?」

 そう訊ねると、マロンは首を縦に振って見せ「その通りです」と、言っているように思えた。そんな可愛らしい態度にソラは喉を撫でつつ、タツキの帰りを待つ。数分後、タツキが帰って来た。かなりの激戦だったのか、肩で息をし着ていた白衣の裾は泥で汚れていた。

「お、お帰り」

「おいたばかりするから、尻に注射してきたわ」

「そ、そうなんだ」

「逆らった罰よ」

 タツキのことだから、言っていることは本気だろう。今頃、あの子供は尻が痛いに違いない。可哀相と思ってしまうが、タツキから逃げるのが悪い。逃げたら追い掛ける。それが、タツキの本能だ。

「で、今日はどんな用かしら?」

「相談したいことがあって」

「相談? いいわよ。じゃあ、二階で待っていて」

 その時、ケツに注射をされた子供の声が響く。その台詞にタツキの動きが止まり、ソラの額からは汗が流れ落ちた。

 ――クソババア。

 タツキにとって、禁句とも言える言葉。次の瞬間、全身から怒りのオーラを放ち物凄い形相で外を睨み付けた。

「……落ち着こうね」

 恐る恐る声を掛けるも、反対に睨み返された。普段のタツキから想像できない姿に、ソラは言葉を詰まらせる。そして一言「お好きにどうぞ」としか言えなかった。今のタツキは、誰も止められない。

 再び、全力疾走の追いかけっこがはじまる。流石に「捕まれば、何をされるかわからない」そんな気持ちがある子供は、半泣き状態でタツキから逃げ回る。子供相手にムキになるとは……大人気ない。

「オレ達は、二階に行こうか」

 乱雑に置いてある荷物を避け、キッチンがある二階に向かう。一階とは逆に生活スペースである二階は、綺麗に掃除されていた。窓の近くに置いてあるソファーに腰を下ろすと、膝の上にマロンを乗せる。

「仕事をしなくていいのかな」

 無論、患者はタツキが追いかけている子供だけではない。一階には、診療待ちの患者が沢山残っている。その者達を残して追いかけっことは、医者としての立場を再認識してほしいと思ってしまう。しかしタツキは、ひとつのことにとことん集中してしまう性格の持ち主。何を言っても無駄だ。

「さて、どのくらいで終わると思う?」

 ソラは、膝の上に乗せたマロンに問う。するとマロンは首を傾げると、ポンと一回ソラの膝を叩いた。マロンの見解としては「十分で終わればいい方だ」ということらしい。どうやら、完全に飼い主の性格を把握しているようだ。それにより、マロンは特に慌てる様子はない。


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あきゅろす。
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