[携帯モード] [URL送信]

第一章 異端の力
其の16

「私が話したってことは、ソラには内緒にして下さい。どうせ、余計なことを……と、言うと思いますから」

「両親が離婚したと言っていたが、何か理由でもあったのかな? いや、これは個人的に気になってね」

「それは……話さないといけませんか?」

 更に詳しく聞き出そうと、質問を投げ掛けてくる。だが、イリアは躊躇う。いくら尊敬しているユアンの頼みだからといって、これ以上ソラの過去を喋っていいものか。しかし心の中では「尊敬している博士」と、迷いが生じる。ソラとユアン……比重が傾く方は、決まっていた。

 それ以前に「ソラの両親は、離婚をしている」という内容を話してしまっている。今更、話してはいけなかったと自問自答するのはおかしい。それに話したことで、いい方向へ行くことを期待してしまう。それにより迷いながらも、ユアンに更に詳しい情報を話していく。

「無理にとは言わない」

「……ラドック博士は能力の研究をしている方ですから、知っておいた方がいいですね。詳しくは知りませんが、理由としてソラが力を持っていたということです。どうしてそれが離婚の理由かは、話してくれません。無理に聞こうとしますと、怒ってしまいまして……」

「親の中には、力を持つ我が子を毛嫌いする者もいる。それによって捨てられ、孤児となる子供も多いと聞く。仕方がないと言えばそれまでだが、人が持つにはあまりにも強大な力。恐れる気持ちは、わからないわけでもない。それがこのような時代背景を生み出しているのは、間違いない」

「……酷い」

「理由のひとつに、出生率が問題かもしれない。能力者の出生が多いのなら、自然と理解は広まる。だが数が少なければ、理解は広まらない。それに、人を殺傷する力。危険要素の方が大きい。
 力を持たない人間にとっては、脅威になってしまう。僕達の研究は、そういう人たちに理解を得るためもあるんだ。辛い話をしてくれ感謝する。君との約束は守る。それと、今度学会で研究の発表をすることになったのだが、できたら僕のアシスタントをやってくれないかな?」

「私が? いいのでしょうか」

「大丈夫だ。きっとできる」

「……ラドック博士には、色々とお世話になっていますので……ですから私のような者で良ければ、お願いします」

「そうか。此方こそ、宜しく頼むよ」

「はい。一生懸命、頑張らせて頂きます。それと、ご迷惑にならないように勉強もいたします」

「それは、凄いね。しかし、無理はいけない。何より、卒業のことを考えないといけないから。それじゃあ、後日」

 「宜しく」という気持ちを込めイリアの肩を叩くと、椅子から腰を上げる。そして違うカイトスの所に行き、何やら真剣な話をはじめた。イリアの時とは違い、プライベートのことではなく研究に関することだ。

 そう考えると「はじめから、当てにされていない」ということが示される。イリアは、新人に近い立場。そういう面では、仕方がない。本当に信頼されたければ、実力を示すしかない。この研究所では、それが当たり前だ。全ては、実力主義。よって学生気分は、捨てなければいけない。

(ソラが聞いたら、驚くわよね。でも、ソラのことを話したのは良かったのかしら。相手はラドック博士だし、大丈夫……よね。ラドック博士は、優しい方だもの。うん、大丈夫よ)

 ソラの過去を話してしまったことに、後悔が生まれる。しかし相手は信頼のおける博士で、尚且つ能力研究を行っている人物。それに、話していないより話しておいた方がいいと思う。イリアは再びディスプレーに向かい、研究の続きを行なう。ユアンとの約束があるので、仕事を進めるスピードが速まっていく。卒論を急いで仕上げ、アシスタントに望まないといけないからだ。


[前へ][次へ]

16/24ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!