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第一章 異端の力
其の13

「まあ、詳しくは聞かないでおくよ。そうだ、アカデミーは大丈夫なのかな? 卒業が近いと聞くし」

「アカデミーは、平気です。単位も出席日数も、足りていますから。あと、卒論を仕上げるだけです」

 周囲を見渡すと、自分が真っ先に声を掛けられたことに気付く。思わず声が弾んでしまうが、お気に入りの服でなかったことに残念な一面を見せる。ユアンは近くにあった椅子を引き寄せると、時間を掛けて話すつもりなのか腰を下ろす。そんなユアンの行動に、イリアは口許を緩める。

「流石だね。まあ、これが当たり前なのだろう。普通に行うことをできない者も、中にはいるからね」

「そうなのですか?」

「まあ、目立つね」

「そ、それは……」

「君達じゃない。しかし、ランフォード君の通っているアカデミーの中に、いたと思ったが」

 その言葉に、あの二人の行動が当て嵌まった。今ユアンが言ったことを聞かせてやりたいが、言ったところで改善されるという見込みはなし。いや、カイトスからの言葉。将来目指す者から言われれば、少しは良くなるのではないだろう。よって、このことを相談してみるべきか――

 しかし同時に恥ずかしいという感情が生み出され、言葉として発せられることはなかった。

「ところで、アカデミーでの研究はどうかな? 君のことだから、研究も捗っているだろう」

「はい。今研究している内容を、卒論として纏めるだけです。その内容なのですが、最近発見された水中生物の研究をしています。惑星自体は水が90%を占め、陸地は無いといっても過言ではありません。よって生物は、水中生活に適応した独特の進化を遂げています」

「水の惑星という感じだね。そこには、人は暮らしているのかな? やはり、そこが気になる」

「原住民は、存在します。しかし暮らしている場所は陸地ではなく、海の中でした。やはり、水の占める割合が多いからでしょう。人も私達と違う進化をしていました。これは、とても驚きです」

 そう言うとイリアはキーボードを打ち、情報を引き出していく。するとディスプレーにはその惑星に生息している生物の写真と共に、原住民の写真が映し出された。一見、地上で暮らす人間と同じ姿をしている。しかし肺が異様に発達しており、水中で呼吸ができるらしい。

「なるほど。思わぬ発見だな」

「文明も思った以上に発達していまして、私達の研究にも協力してくれています。これは、驚きです」

「それなら、我々の仲間になる日も近いな」

「そうですね。仲間が増えることは嬉しいです」

「ありがとう、参考になった。君の情報収集の的確さや分析力は、なかなかのものがある。将来、期待しているよ」

「いえ、そんな……」

 ユアンに誉められ、イリアは照れ笑いをする。それに憧れの相手に“優秀”と言われ、ますます研究に力が入ってしまう。と同時に、アカデミーを何が何でも卒業しないといけないと決意する。

 気合を入れ、目標達成を誓う。何としてでも、ユアンに認めてもらいたいと思っていた。それは他の人物に負けたくないという、競争心が関係していた。そうなると、二人の存在が厄介になってしまう。何かに付けて「手伝って」と、言ってくる。いっそのこと、縁を切るか。そうすれば、しつこく言われる回数が減る。それに、ソラへの頼みごともしなくて済んだ。

 しかし、性格面を考えると不安になっていく。「敵に回したくないタイプ」と言われている二人。縁を切った後の仕返しが恐ろしい。


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