第一章 異端の力 其の6 「お願い。今回だけ――」 「……全く」 「有難う」 「まあ、暫くいるといいよ」 今出て行くとなると、住民達の総攻撃が待っているだろう。それに、此処はソラの住まい。それにより、不必要な争いは止めてほしかった。また、イリアが住民達によって怪我を負ったら困る。それにより住民達の気持ちが治まるまで、イリアを匿うということを選んだ。 「でも、お陰で早起きはできた」 「でしょ!」 「調子に乗ると、痛い目を見るぞ」 「先程、十分痛い目に遭いました」 「自業自得だ。さて、匿ってやる代わりに、コーヒーでも淹れてもらおうかな。嫌とは言わせない」 命令口調での指令であったが、イリアはコーヒーを淹れる為キッチンへと向かう。何だかんだいいながら、二人は良い関係にある。一方ソラはパソコンの電源を入れ、メールを確認する。一件受信されていた。相手は昨日車を借りた友人。アドレスからして、携帯から送信したようだ。 『元気か? 昨日の俺の話、あまり気にするな。冗談だし。 それと、暇だったら飯を食いに行かないか。 いい店を見つけたんだ。美味いぜ、きっと。 昨日のお礼だ。 俺が奢る。安心しろ、金に関しては大丈夫だ。 それに、今後の為にいいだろ? そういうことだから、返事を待っている』 相手の都合も考えない一方的な内容に、暫く考え込む。今日は休みなので友人の誘いを受けることができたが、都合というものがある。買い物に行くという予定をたてていたソラ。迷ってしまう。 「はい、ソラ。淹れてきたわ」 考えごとをしていると、イリアがマグカップをテーブルの上に置く。香ばしいコーヒーの香りが鼻を擽る。いつもコーヒーはブラックで飲むという好みを知っているらしく、ミルクと砂糖はなし。 「有難う」 「どうしたの? 真剣な顔をして」 「いや、別に。昨日の疲れが残っているのかな」 「仕事、大変なの?」 「大変だな。だから、今日は昼まで寝させてほしかった」 嫌味をたっぷり込めて言うと、コーヒーを一口含む。するとソラの表情が、徐々に険しくなっていく。かなり苦かったらしく、懸命に飲み込む。そして飲み込んだ瞬間、イリアを睨み付けた。その表情にイリアは“やってしまった”と、動揺する。どうやら、本気で分量を間違えたようだ。 「なんだよ、この苦さは」 「だって、苦い方がいいと……」 「加減ってものがあるだろ」 「スプーン三杯って書いてあったけど、足りないと思って一杯多めに入れてみたの。やっぱり、いけなかった?」 「どのスプーンで?」 「大匙」 それを聞いた瞬間、顔を抑え大きく溜息をつく。ラベルに書いてあったのは“大さじ”ではなく“小さじ”あれは、凝縮されたインスタントコーヒー。大さじ四杯も入れたら、苦すぎて飲めるものではない。逆に、味覚がおかしくなってしまう。それほど、苦い液体となってしまう。 [前へ][次へ] [戻る] |