第一章 異端の力 其の5 ソラは頃合を見計らうと壁に寄り掛かり、欠伸を噛み殺しながら眠そうな声音で今日の予定を告げる。 「今日休み」 「えっ! え〜っと……その……御免なさい。でも、朝早く起きるって健康にいいのよ。だから起こされたことも健康のはじまりと思えば、いいと思えるけど。やっぱり……駄目かしら」 「ストレスと溜めるということは、健康に良いとは思えないけどね。健康的というのなら、寝かせてほしい」 「ストレスになった?」 「かなり」 あれだけの大音量でドアを叩かれ、ストレスが溜まらないという方がおかしい。“健康に”と言うのなら、朝は静かに寝させてほしいとソラは思ってしまう。お陰で、眠気が吹っ飛んでしまう。 「だって、あのくらいしないと、いつも起きないから……ソラは、徹夜ばかりしているもの」 「周囲の迷惑も少しは考えないと」 「そう?」 その言葉に、ソラは無表情で横を指差す。その姿にイリア示された方向に、ゆっくりと視線を向ける。すると、ドアを開け此方を睨み付けている住人達が視界に入ってきた。それも、殺気に似たオーラを放っている。朝の迷惑行為はソラだけでなく、多くの人にも迷惑を掛けていたようだ。 「謝った方が、いいよね?」 「謝りたくなければ、謝らなくていい。オレには、関係ないことだから。それに怒られるのは、イリアだよ」 「そ、そんな……」 「それじゃあ、頑張って」 何事もなかったかのように、無言のままドアを閉めてしまう。するとイリアは慌ててドアを開けようとするが、見事に身体半分を挟んでしまう。それに“ボコ”と鈍い音がし、頭をぶつけていた。 イリアの情けない姿に嘆息し、再度ドアを開けてやる。相当痛かったらしく目に涙を浮かべ、ぶつけた所を摩っていた。 「痛ッ……」 このようなことでイリアが死ぬようなことはないが、後々何かがあっては困ってしまう。それに、周囲が煩く騒ぎ立てる。それがソラにとって、いい迷惑であった。何より、彼等は必要以上に食って掛かってくる。不必要な争いを避けたい――しかし、そうもいかなかった。 「イリア。オレのことはいいって」 「あっ! そう言って、話を逸らそうとする」 「いや、違う。重要なことを忘れているから。イリアは、其方の方が大切だよ。それを気付かないと」 「何を?」 再度、一定の方向に指を指す。頭をぶつけたことで、先程の記憶が飛んでしまったのか。そうであったら、大変である。イリアはキョトンとした表情で横を向く。すると、見る見る顔が青褪めていった。 「さあ、謝ろう」 「皆の顔が怖い」 「あれだけの音を出すから」 「だって、ソラが……」 「オレの所為か」 「暫く匿って」 「お、おい!」 そう言うとソラを部屋の中に押し込み、自分も逃げるように入室。そしてドアを閉め一息つく。 「イ、イリア。普通は謝るだろ?」 [前へ][次へ] [戻る] |