第一章 異端の力
其の15
自己中心的な所は、相変わらずだからだ。
その時、ショーウィンドウに映った影に身体が震える。振り返り遠くを歩く人物に視線を移す。
やはり、二人だった――
見付かると厄介なので、イリアはその場から離れることにした。どうやら、二人は気付いていない。喋ることに夢中で、周囲のことに目がいっていないようだ。その為、通行客とぶつかってしまう。
だが、謝る気配は全くなし。逆に相手が悪いと睨み付け、文句を言い出した。言われる方は堪らない。勝手にぶつかっておきながら、他人の所為にする。本当に自分勝手な人間だと、呆れるしかない。
騒ぎを聞きつけ、空港関係者が集まる。それでも尚、文句は続く。すると今まで我慢していた相手が怒りだす。無理もない、何の面識もない人間に逆切れされたのだから。怒って当たり前だ。
周囲に、野次馬が集まりだす。その中で揉め事を起こすのは、同じアカデミーの生徒。いくら嫌いな相手でも、恥ずかしくて仕方がない。こんなことで、アカデミーの名が有名になるとは――
校長が聞いたら、何と嘆くだろう。
――自分達が悪い。
己の感情を抑えることもせず、爆発させた。相手にとってはいい迷惑であり、どうしてそうしてしまうのか理解できない。相手に頼む行為も物の貸し借りも、所詮同じことなのだろう。
自分の都合通りに物事を運ばせる。嫌な性格といってしまえばそれまでだが、嫌なものは嫌だ。それを言葉にできたら、どれだけ楽だろう。しかし、イリアの性格面を考えればそれは無理であった。
長く見ているのに相応しい光景ではないので、イリアは逃げるように立ち去る。これ以上、関わりを持ちたくなかったからだ。それに同じ仲間だと判断されたら、一緒に捕まってしまう。
居場所を失ったイリアは、再び建物の外に向かうことにした。中にいてもよかったのだが、二人のやり取りが耳に入る。それに、もう顔を見たくはなかった。イリアは冷たいコンクリートの上に座ると、膝を抱え幼馴染が迎えに来るのを待つ。到着まで四十分――携帯電話で時間を確認すると、電話を掛けてからそれほど時間が経過していないことを知った。
動かないのは、これはこれで辛い。しかし、行く場所がない。それに約束したからには目立つ場所にいないと、迷惑を掛けてしまう。四十分は長い時間であると思われるが、待つことに慣れているイリアにとって長くは感じない。このようにしている間も、確実に時間は流れている。
(ちょっと寒いかも……)
服の隙間から入っている外気に、身体を震わす。それに尻から伝わる冷たさも加わり、徐々に体温を奪っていく。手袋をしていても指先は冷たく、半分感覚が失われていた。口元に持って行き温かい息を吹きかけるも、温まるのは一時的。すぐに、冷たい指先に戻ってしまう。
(早く来てほしいな)
寒い季節でなければ、何時間でも待つことができる。しかし、芯から冷えるこの寒さ。我慢の限界はある。
何気なく視線を横に向けると、タクシーを使って帰宅する者の姿が見て取れた。イリアも金に余裕があればタクシーを利用していたが、財布の中身はこの季節のように寒い。金がある人間と、そうでない人間の格差。身を持ってそのことを知ったが、悲しくて泣くに泣けない。
足早に行き来する人々。誰も座り込み、震えているイリアに目もくれない。「所詮他人事」という思いが働いているのか、何だか世知辛い世の中だと思ってしまう。しかし、声を掛けられたら掛けられたで困ることも多い。求めているけど結局はいらない。何だか矛盾していると、笑ってしまう。
寒さによって、眠気が襲ってくる。このような場所で凍死ということはないと思われるが、問題は見た目だろう。人通りの多い入り口。いくら他人に無関心とはいえ、目立つものは目立つ。
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