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第一章 異端の力
其の14

 卒業をした後は、どうするのか。イリアは研究の為に、アカデミーに残ることを考えている。つまり、ひとつの事柄を研究するカイトスに。学生とは違い、結果を残さないといけない世界。

 そうなると、ますますお洒落ができなくなってしまう。結局の所、今のままでずっと過ごすしかない。それに「お洒落をする暇があったら」カイトスになったら周囲からそう言われるだろう。

 現に、学生のうちからそのように言われている生徒もいるぐらいだ。それだけ、カイトスは大変な職業。
しかし、遣り甲斐はあった。

「今年の新作か……」

 並べられている服は、流行を先取りしとても素晴らしい物であった。この服を欲しいと思っても、残念ながら手持ちの金額では購入できない。旅行の為に用意したお金の大半を例の二人に持っていかれ、帰るお金もない所謂文無し。この虚しい状況に、溜息しか出ない。

 友人達に貸しているのは、お金だけではない。研究データを収めたディスクも貸してある。それは、いまだに返してもらってはいない。いや正しくは紛失、つまりなくされた。バックアップを取ってあったので大丈夫であったが、もし取っていなければ今までの研究が全て無になってしまう。

 研究を行っていない二人が、どうしてイリアの研究データを欲したのか。その理由は、後に判明した。二人が、同じアカデミーの生徒に渡したのだ。それも、イリアと同じ研究をしている生徒に。

 そのことを聞いた時は愕然となり、言葉が出なかったという。データが入ったディスクを渡してくれるというのなら、彼氏になってもいい。そんな馬鹿馬鹿しい理由で、友人という偽りの仮面を被った二人はイリアに近付いた。そしてディスクを持って行き、自分達の欲望を満たす。

 しかし、彼氏になるという話は嘘だった。つまり、二人に利用されたということだ。真実を知った二人は逆上したが、事が事だけに大事にはできない。結局、うやむやで終わってしまった。

 そしてディスクを受け取った生徒は、どうなってしまったのか。此方は、望んだ結果を得られなかったという。このデータは、所詮イリアが研究したもの。これを基に論文を書こうとしても、どのようにして行き着いたのか過程がわからない。よって、論文は一文も書けなかったという。

 よって、ディスクは無用な物となってしまった。それなら素直にディスクを返せばいいと思うが、問題は簡単ではない。他人のデータを盗んだとわかれば、大問題となってしまう。

 それを恐れた相手は、証拠隠滅ということでディスクを捨ててしまった。よって紛失ではなく、故意に行ったことになる。学生にとって研究データは、命の次に大切な物。それを無責任な理由で捨て去るとは、アカデミーで学ぶ資格はない。いやその前に、生徒である資格がない。

 例の二人も同罪だ。研究データということの意味合いを知っていない。これで将来を決めているのだから、どうにかしている。真に友人と名乗るのなら、このようなことはしない。

 このまま、卒業しなければいい。

 望む職業に、就くことができなければいい。

 これ以上、迷惑を掛けないでほしい。

 もう、頼らないでほしい。

 正直、そのように思ったことがあった。イリアはそのことを周囲に話したら、爆笑しながら賛同してくれた。クラスには、イリアのように研究を行っている生徒は多い。それ故に、この事件は許せない。

 ――卒業と同時に、縁を切りなよ。

 そのように言われたことを思い出す。どうせ二人は、卒業できる見込みはない。それならさっさと卒業し、他人の振りをしてしまえばいい。流石に就職先まで押しかけて――ということは考えにくい。もし押しかけてくるようであれば、それなりの対処を考えればいい。


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あきゅろす。
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