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第一章 異端の力
其の12

「他人に追試なんてやらせて、怒られるわよ」

「平気。イリアが勝手にやりました。教授達には、そう言うから。私だって、怒られたくないもの」

「うわー、腹黒」

「それはお互い様でしょ?」

「まあね」

 悪知恵の発想だけは、アカデミーで負けるものはいない。だが、そのことさえ教授達は予知していることを二人は知らない。やはりどう足掻いたところで、二人が卒業をできる道はない。




 イリアは重い荷物を引き摺り、建物の外に向かう。すると、思わず目の前に広がる光景に溜息が漏れる。街灯や色とりどりの明かり、それに美しくライトアップされた店の看板などによってとても明るかった。

 天を仰げば、高く聳え立つビル。その谷間を縫う様に走るのは車。今までレミエルより多少文明水準が低い惑星にいた為、目の前に広がる高水準の技術力に圧倒される。夜だというのに明るい都市。数千年前には考えられない、夢物語とされた風景が現実としてそこに広がる。

(そうだ。電話をしないと)

 親との約束事を思い出し、携帯電話を取り出すと自宅に電話をする。耳元に相手を呼び出す音が聞こえる。しかし、いくら経っても相手は出ない。シャトルの中で時間を確認した時は五時。

 父親が不在であっても、母親が自宅にいる。それが二人とも不在となると、何かがあったのかと思ってしまう。それとも約束を守らなかったことを怒り、態と電話に出ないようにしているのか。

 しかし、イリア両親はそのようなことを行う人間ではない。厳しい面もあるが、冗談や悪ふざけは行わない。

 そうなると、二人で何処かに出掛けた可能性が高い。これも、帰宅が予定より過ぎてしまったのが原因だろう。友人達の迷惑行為は、違う方面にも飛び火していた。このままでは、両親から「悪い子」と、思われてしまうだろう。本当に二人の行動は、何かと周囲に迷惑を掛ける。

(やっぱり、頼むしかないか……)

 両親が不在と決まった今、頼みの綱は幼馴染。出てくれるようにと願いつつ、イリアは電話を掛けた。暫く、呼び出しの音が続く。出られないということで半分諦めてしまうが、電源が切られていないので仕事中ではない。

 しかし、相手はなかなか出ない。時間を置いてから再び掛けなおそうかと思った時、相手が電話に出た。不機嫌そうな声音。その声を聞いた瞬間、イリアは電話を切ろうとしていた。

「切っちゃダメなのよ」

 自分自身に突っ込みを入れると、幼馴染に迎えに来てほしいと頼む。だが、相手からの反応はなかった。更に、互いに沈黙が続く。何分経過したのか、先に口を開いたのは幼馴染の方だった。

『親は?』

 それは、絶対に聞かれると思っていた内容であった。するとイリアは、今までの出来事を簡略的に話す。すると、反応は悪い。それに、溜息が聞こえた。それに対しイリアは、心の底から申し訳ないと思う。

『旅行の帰りか』

「う、うん」

『荷物は沢山あるだろうね』

「……結構あるかも」

 その言葉に続き、三回目の沈黙がなされた。表情は確認できなかったが、不機嫌なオーラが電話口から漂ってくる。相手は、迎えに行くのを嫌がっている。それもそうだ。事前に頼んでおらず、いきなり電話をしたのだから。それに相手にも都合があるので、我儘は言えない。


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