第一章 異端の力
其の11
「そうよ! 私が出世をすればいいのよ。そして、偉くなるのよ。そしてイリアを、スカウトしてあげればいいのよ。出世をすれば、スカウトも可能になるはずよ。私って、頭いいわね」
「あっ! それいいわね」
「そうしましょうよ。ねえ、いい考えでしょ? 私達って、本当に頭がいいわ。凄いでしょ」
その気楽な思考に、イリアはうんざりとしてしまう。あの世界で上を目指すということは、笑いながら会話できるほど簡単ではない。この二人が出世できるというのなら、世の中のカイトス全てが高い地位についているだろう。それだけ、二人の信頼は無いに等しかった。
「あ、有難う」
「感謝しなさい。で、そのお礼として追試代わりに受けておいて。前払いと思えば、苦にならないでしょ」
「えっ! 追試なんてやるの」
「今月の頭の講義をサボったことが、知られてしまったのよ。もう、病気で欠席としておいたというのに。誰よ、教授達に言ったのは。お陰で、私達が苦労するのだから。面倒なのよね」
まさに、自業自得というべきだろう。嘆いた所で、悪いのはこの二人。それに教授にこの一件を話した犯人を、イリアは知っていた。それは、クラスメイト達。遊ぶことに集中し、勉強に身を入れない二人に“お仕置き”という形で教えたらしい。要は、鬱陶しいからだ。
アカデミーは知識を得る場所であって、遊び恋人を見付ける場所ではない。それを目的としているのなら「二人で、合コンでも開けばいい」そう思っている生徒が多いことは確か。意外にも、イリアに対しての味方は多い。その理由として、真面目に学業をこなしているからだ。
「追試って何?」
「科学よ。化学の方じゃないから安心して。イリアの得意分野でしょ? だから、任せるのよ」
「でも、違う人が受けてバレないの?」
「大丈夫よ。追試の問題は、後で送られてくるみたい。それをイリアに送信するから、終わったら返信してね」
「そう、それならわからないわ」
ネット上でやり取りが行われるとなったら、違う人間が問題を解いたということは気付かれにくい。しかし教授達が、それに気付いていないというのはおかしい。何か裏があると考えるのが利口であったが、どのような方法が隠されているのかはわからない。だが、絶対に裏が存在する。
「わかってしまったら、怒られてしまうわよ。それ以前に、追試は自分達でやらないと……」
「大丈夫よ。イリアが喋らなければ、わかることはないわ。だから、絶対に喋ってはダメよ」
他力本願もここまでくると、素晴らしいものがある。するとイリアはこれ以上話を続けると他にも無理難題を押し付けられると思ったらしく、二人に先に帰ることを伝えた。その瞬間、残念そうとも悔しそうとも取れる表情を浮かべた。やはり、イリアの考えは正しかった。
卒論を見せ、追試も代わりに行えという。その他に、何を注文してくるというのか。いくら温厚な性格の持ち主であっても、限界は近い。それに、先程の恩着せがましい言葉。絶対に能力研究を行うカイトスになれないというのに、妄想は巨大に膨れ上がり現実と夢が一緒になってしまう。
故に、理想も現実もなかった。
「私、帰るね」
「……ちゃんとやるのよ」
別れの挨拶は、自己中心的という言葉が詰められたものであった。一瞬その言葉に身体を震わすが、急いで立ち去ってしまう。残った二人は暫くイリアの後姿を見詰めると、本音を話しはじめた。
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