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第一章 異端の力
其の10

 それも、能力を研究するカイトス。この研究は多くの者にとって、一種のステータスのようなもの。高い知識を有し、憧れと夢だけで付ける職業ではない。ほんの一部の天才……それも生まれつきの秀才が付けることができ、この研究に携わっている者達は憧れの的だ。

 正直、イリアもこの研究をしたいと思っていた。しかしアカデミーの成績を考えると、夢のまた夢。到底なれるものではない。イリアの成績は、平均より少し上。決して天才というわけではないが、秀才というカテゴリーには分類される。しかしこの成績は、能力を研究する者にはなれない。

 友人達はどうか。残念ながら平均より下。これも授業をサボり他人任せの結果だろう。この成績で能力の研究を行いたいというのだから、世の中の難しさを理解していない。それに「なりたい」というのは言葉だけで、それに向かって勉強をしているとは聞いたことはない。

 つまり、アカデミーを卒業すればなれるものだと勘違いをしている。確かにアカデミーを卒業すれば、それなりの職業に就ける。だが、カイトスの場合は違う。イリアのように学生時代から研究生として学園生活を送っているのなら話しは別だが、何もしないでなりたいというのは無理がある。

 最低限の知識も持たない者が、研究を行うなど身の程知らず。そのような言葉が返されるだろう。それに運良く理想の職業に就けたとしても、知識のなさが露呈しすぐに辞めることになってしまう。

 膨大な知識を有する者の集まり。その中に加わりたいというのなら、今から勉強することが大切だ。友人達に対してそのように思うが、言ったところで受け入れてくれるとは思えない。

「ねえ、カイトスになるの?」

「そうよ。そして、バリバリ研究するの。それって、私達の夢だから。夢は、大きくないとね」

「能力研究だっけ?」

「当たり前じゃない。憧れの研究よ。その研究について、有名になるんだから。有名になって、お金持ちになるわ」

「そして、素敵な人と結婚するの」

「それ、いいわね」

 何とも馬鹿馬鹿しい人生設計だと、イリアは肩を竦めてしまう。この研究につく為に、どれだけの人間が頑張っているというのか。クラスメイトの中にも将来能力の研究をしたいといって、毎日のように徹夜で勉強をしている生徒がいる。その人がこのことを知ったら何と言うか。

 ふざけるな――そのような言葉が返ってくるだろう。

「何、その表情?」

「な、何でもないから」

「ふーん、イリアはどうするの?」

「私は、あのまま研究を続けようと思っているけど。結構、あの研究は好きだったりするから」

 イリアがアカデミーで行っている研究は、新しく発見された生き物の研究。生態調査が主な研究課題で、それなりに実績を収めている。そして連邦の研究所にも学生の身分で出入りできるという、なかなか優秀な生徒だ。それ故、友人達から発せられる言葉には刺が感じられた。

「上を目指さないんだ」

「分野が違うから」

「イリアなら、なれると思うわ」

「そうそう、頭いいし」

 嫌味たっぷりの言葉には、相手に対しての嫉妬心が含まれていた。口では「能力を研究したい」と言っていても、多少なりとは現実を理解している一面が見受けられる。しかし、相変わらず「卒業すれば」という考えは同じらしく、やはり世の中の仕組みをわかっていない。


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