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第一章 異端の力
其の9

 雪が降りそうな気候だった。確かにレミエルは、冬を迎えたばかり。しかし出発する時に確認した予報では一日中快晴で、雪が降るということは言っていなかった。だが、この気候は雪が降るものだ。

 気象データの間違い。そう思いつつ、イリアはマフラーを巻き直した。しかし、ひとつだけ利点はあった。雨より雪の方が、何かと便利だ。徒歩の場合、雪の方が視覚で楽しめるからだ。

 ロビーでイリア達は、私物の荷物と購入した土産が荷物専用の通用口から流れてくるのを待つ。彼女達がいるロビーは、賑やかであった。それに、様々な種族が存在する。そして巨大なガラスの外には今まで乗っていたシャトルが止まっており、帰って来たと改めて実感する。

 荷物を受け取ると、次は手続きの準備を行わないといけない。イリアは急いでラウンジに向かうと、暫しの休憩。そして紅茶やコーヒー・ココアを飲みつつ、旅の思い出話に花を咲かせた。

「本当に、疲れたわ。今すぐベッドに横になり、グッスリと眠りたい。旅行って、本当に大変ね」

「やっぱり、予定通りにすれば良かった。でも、買い物は楽しかったわ。いっぱい、買ってしまったもの」

「そうそう。レミエルで購入できない物が、沢山あったものね。本当は、もっと購入したかったわ」

「でも、金銭が厳しかったしね」

「そうなのよ。貧乏って、辛いわ」

 このように後悔したところで、全ては遅い。予定通りにしないのだから、金銭に問題が生じた。行き当たりばったりの旅行は今回で終わりにしてほしいと思うイリアは、無意識に頷いてしまう。

「貴女は、どうするの?」

「私は、これで帰ろうかと……卒論も書かないといけないし。それに、時間を掛けて書かないと……」

「あっ! 卒論。あ〜、嫌なこと思い出しちゃった。私、何も書いてない。ねえ、どうする」

 イリアの予想していた通りに、二人は卒論を書いてはいなかった。こうなると、手伝いは間違いない。いや、この場合は写すが正しい。それが、彼女達のいつものやり方であった。

 全ては他人任せで、自分で行おうとはしない。これで卒業を考えているのだから、世の中を甘く見ている。しかしそのことを考えると、何故アカデミーに入学できたのかと思ってしまう。レベルの高い学校ではなかったか、楽して入学できる場所ではない。何か、裏があるに違いない。

「私だって、書いていないわよ」

「ということで、宜しく」

「宜しくって……」

「勿論、卒論に決まっているわ。今回も写させてということ。いいでしょ? 毎回のことなんだし」

 このことに関して、教授達から何も言われていないようだ。提出日までこのことを内緒にし、痛い目に遭ってもらおうと考えているのだろう。そうしなければ、二人の性格は直らない。それにこのような生徒を卒業させてしまったら、アカデミーの面子に関わってしまう。

 いや、その前に単位の問題がある。イリアは真面目に授業を受け、テストの成績もまずまず。順調に単位を獲得しているが、友人達はどうか。「面倒だから」という理由で度々授業をサボっては、何処かに遊びに行く。卒論を提出するしないの問題の前に、こちらが引っ掛かる可能性が高い。

 講義に参加していたとしても、見えない場所でメールのやり取りを行う。真面目に講義を聞いていることは、滅多になかった。無論、これは多くの生徒が知っている。しかし、何も言わない。

 そして講義が終わったと同時に「後で、教えてほしい」という一言で済ましてしまう。今思えば、落第しないだけで奇跡に等しい。このような生活を送っていて将来科学者(カイトス)を目指しているのだから、何処か間違っている。いや、この選択は無謀としかいいようがなかった。


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