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第一章 異端の力
其の8

 イリアの幼馴染は、特に外見を気にしていない。全ては中身が重要だと思い、変に着飾る女性が嫌いであった。化粧と宝石で身を固めるということは、自身の醜い部分を隠している。幼馴染がそのよいに言っていたことを思い出したイリアは、その言葉を二人の姿に合わせてしまう。

「私の友人と会ってください……か」

 一般の人間が体験できない、厳しい環境に身を置いている存在。そのことはイリアも承知している。だからこそ、友人達に会わせ楽しんでいいものなのか考えてしまう。それに、幼馴染の置かれている立場もわからないでもない。

(こんなことを言ったら、怒られるだろうな)

 根が真面目な彼。恋人探しの道具と知れば、口を聞いてくれない可能性も高い。そんなことになってしまったら、正直悲しすぎる。それに喧嘩したとなれば、これも恰好のネタとなる。

(どうしよう)

 会いたいと言われている手前、会わせないわけにもいかない。しかし、幼馴染との仲を壊したくもない。どちらを取るべきか悩むイリアは苦悶の表情を浮かべ、唸り声を上げる。するとその姿を病気で苦しんでいると勘違いした乗客が、近くにいた乗務員にそのことを知らせた。

「お客様、お加減でも悪いのですか?」

「えっ! あっ! 大丈夫です」

「唸り声を上げていたと、聞きますし……」

「本当に、大丈夫です。ただ、考えごとをしていただけですので。ですので、気になさらないで下さい」

「そうでしたか。もし何か困ったことがありましたら、気軽にご連絡下さい。病気でしたら、早急な対処が必要ですので」

 それだけを言い残すと、乗務員は自分の仕事場に帰っていく。悩みごとと同時に唸り声を上げていたとは、恥ずかしい。後方を一瞥すると、乗務員に連絡した乗客が此方を見ている。

 イリアはその乗客にお辞儀をすると、相手も頭を下げてくる。何事もなかったと判断した乗客は、足早にその場を離れてしまう。まるで、これ以上関係を持ちたくないという雰囲気だった。

 持っていた小説を脇に抱えると、ポケットから携帯電話を取り出す。そしてストラップとして使っている、掌サイズの小さな熊の縫いぐるみに触る。それは幼馴染からプレゼントされた物。

 年数が経っている為色あせてしまったが、イリアにとってとても大切な物だった。何処かに行く時も必ずお守り代りとして持ち歩いている。プレゼントした相手にしてみれば「まだ持っていたのか」と呆れるだろう。

 だが、大切な物はいつまでも持っていたいと思うのが女心であった。それに、これは幼馴染からはじめてプレゼントされた物。それだけ思い入れが深く、ボロボロになるまで持っているだろう。

 イリアは幼馴染みに、友人以上の感情が芽生えつつあった。だがそのことに、イリアは気付いていない。知らず知らず、幼馴染みを心配する行為が目立つ。そんな行動に気付いているのは、ごく一部。

「ソラ、私――」

 名を呼んだとことで、答えてくれる相手はいない。急に寂しさが込み上げてきたイリアは縫いぐるみを抱きしめると、痛む胸に押し当てる。そして微かに肩を震わせ、泣きはじめた。


◇◆◇◆◇◆


 定刻通りにシャトルは、レミエルの宇宙港に到着した。シャトルから降り立った瞬間、涼しい風が肌を撫でる。今まで空調の効いた暖かい場所にいたので、一段と肌が敏感になり服の下の肌に鳥肌がたつ。だが外気の違いに一番敏感だったのは友人達らしくくしゃみをし、鼻を啜る。


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