第一章 異端の力 其の6 特殊な硝子に、額を当てる。コンっと乾いた音が響き、硝子から宇宙の凍り付くような冷たさと、微かな振動が伝わってくる。 それが、無性に切ない。 (いなくなっちゃった……) いつの間にか、軍の艦隊が姿を消していた。目的地に着いたのかそれともワープ空間に入ったのか、あの艦隊に幼馴染みが乗っていないことを願う。行けば必ず危険が伴う部隊に、所属しているから。 「あっ!」 あることを思い出し、声を出してしまう。もし幼馴染が何処かへ行っていたとしたら、連絡を取ることができない。イリアは重要な部分を考えずに、これからの計画を立てていた。「友人達のことを、言うことはできない」どうやら、イリアも同じように計画性がないようだ。 仕事を行っている間は、絶対に連絡を取ることはできない。そのことを考えると、帰宅に関しては完全に徒歩になってしまうだろう。父親の機嫌が直っていることを祈るか。それとも、幼馴染が仕事中でないことを願うか。どちらにせよ、他人任せということは変わらない。 「不幸の連続かも」 手に持っていた小説を眺めつつ、イリアは過去の出来事を思い出す。それは、アカデミーでのやり取りであった。 しかし、それはいい思いではない。 ◇◆◇◆◇◆ 「イリアって、彼氏いるの?」 ことのはじまりは、決まって唐突なもの。友人のひとりがそう質問してきたのも、何ら意味のないものだった。ただの興味や好奇心。そのようなところだろう。それ故に、質問されたイリアは答えに困る。 「……まだ、いないけど」 「嘘! この前、男の人の一緒にいたでしょ」 「あ、あれは……」 「彼氏だと、思うけどな。メールのやり取りしているようだし。それなら、間違いないわね」 「えっ! どうしてそんなことを知っているの?」 友人達の話ではこうだった。イリアの自宅に遊びに行った時、こっそりパソコンの電源を入れメールを拝読。そのメールの内容から、彼がいると思ったらしい。こうなると、プライバシーの侵害に当たる。 どのようにしてパスワードがわかったのかと、様々な意味合いで驚きであった。二人の裏の顔は、ハッカーだというのか。本当にやっているとは思えないが、ここまで技術があると変に疑ってしまう。イリアのコンピューター技術は、一般人と同じ。寧ろ、友人や幼馴染みの方が高い。 「じゃあ、私の幼馴染のことも……」 「今、何て言った。幼馴染!」 「それ、知っていると思っていたのに」 「面白いことを知ったわね」 全ては、遅かった。二人は新しい情報を得て、互いに笑みを浮かべていた。いくら誤魔化しても、全ては後の祭り。こうなってしまうと、どうにもならなかった。話し好きの友人。この話は二人で済めばいいと思うが、アカデミーの中に広がってしまえば絶対にからかわれる。 「幼馴染みなんだ。知らなかったわ。ふふふ、いいこと聞いちゃった。でもさ〜、メール交換している仲なら立派な彼氏じゃない。それにほら、幼馴染み同士は最後仲良くなるって話にもあるじゃない。も〜、何で隠していたのよ。私たち友達じゃない。今度絶対に紹介して」 [前へ][次へ] [戻る] |