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第一章 異端の力
其の3

(今回だけは、手伝いません)

 携帯電話を閉じると、備え付けの時計で時刻を確認する。

 五時――

 時計は、そのように時刻を教えてくれた。この時刻になってしまうと、レミエルは薄暗い時間になる。冬を迎えた、故郷の惑星。日の傾きは早く、ぐずぐずしている夜になってしまう。

(迎え、来てくれないよね)

 発展している惑星とはいえ、夜道を女性が一人で歩くのは何かと危険だ。安全な惑星として有名であったが、暗い場所に行けばわからない。安全を裏返せば、何が起こってもおかしくはない。だからこそ迎えに来てほしいと思うが、何も言わずに約束を破った手前頼みづらい。

 時間に煩い父親。電話をしたら、何と言われるだろうか。予定より遅くなってしまうと伝えた時、機嫌が悪い声音をしていた。計画性がないと呆れられているだろうが、悪いのは少女ではない。

 しかしどのように説明したところで、言い訳になってしまう。少女の父親は、そのような人物だ。

(この歳で、門限が六時なんて……)

 少女の年齢は、十九歳。友人達に比べたら、門限の時刻は早い。アカデミーの授業時間を考えると、講義が終わったと同時に帰宅しないといけないことになってしまう。講義の内容によっては、門限を過ぎてしまう場合もある。こうなると、少女が自由にできる時間はない。

 無論友人達と遊ぶ時間は殆どなく、それ故友人の数も少ない。しかし、そのことを父親に話しても聞いてはくれない。アカデミーで研究を行っているのなら、そちらに集中しろということだ。

 しかし、この年齢では無理である。

(でも……)

 そのように言われても、年齢的に遊びたいと思うのが普通。しかし父親の言うように、少女はアカデミーでとある研究を行っている。授業と研究の両方を行い、尚且つ友人と遊びたい。

 だが、よくよく考えれば父親の意見が正しい。よって少女は人生経験が乏しい結果、自分中心に考えてしまう。アカデミーの生活は、大変だ。しかし社会に出れば、それ以上に辛い経験が待っている。

 真面目に授業と研究を行い、普通以上の成果を収めている。だが少女は、其処まで行き着いていない。よって中途半端な生活を送っている者が、自由で遊べる時間を求めてはいけない。少女の父親はそのことを言いたいのだと思われるが、長く続く反抗期の影響で素直に受け入れられない。

(遊べるのは、学生の時だけだもの)

 どのような人物にも学生の頃があったので、娘の気持ちがわからないとは思えないが、社会で様々なことを経験し、親という生き物に変化した時、人間は大幅に変わってしまうのだろう。

 少女は、近くで仕事を行っているサラリーマンを一瞥する。そして、自分の未来について考えていった。何処かに就職をしたら、このサラリーマンと一緒になってしまうのか。今も授業と研究に追われているというのに、一生それが付き纏うということになると、少女は遣る瀬無い気分になる。

 その時、少女の名前を呼ぶ声が響く。反射的に声が聞こえた方向に視線を向ければ、其処には少女の友人である、アニスとディアーナが立っていた。二人は、少し怒ったような表情を浮かべている。この表情から察することができるのは、少女を心配していないということだ。

「勝手に、いなくならないで」

「心配したわ」

「イリアだって、私達の気持ちがわかるでしょ」


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