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第一章 異端の力
其の2

(馬鹿かも……)

 教授達もそのことを知っているらしいが、注意を行うことはしない。「今楽をしていると将来が大変」ということを教える方向に切り替えたのか、それを知らない友人達は気楽でいい。

 確かに、今は誰かに手伝ってもらうということはできるが、卒業した後もそれが行えるとは限らない。それでいて「手伝って」と言うのは、聊か無理難題が多い。しかし友人達のことを考えると、就職先で「手伝って」と頼める人物を見つけてしまうだろう。意外に世渡りは上手い。

「……そうだ」

 何かを思い出したかのように少女は椅子から腰を上げると、シャトルの一番奥に向かうことにした。其処は展望エリアのような構造となっており、黒一色の宇宙空間が一望できた。

 しかしこの空間は、意外に寂しいものがあった。それなりに広い空間の割には小さい子供が数人と、サラリーマンらしき男が仕事をしている者しかいない。この時代、宇宙空間は見慣れている。大して珍しいものではないらしく、子供達は外の景色に見向きもせず遊んでいた。

 少女は壁に背を預けると、ポケットから携帯電話を取り出し、撮影した写真をひとつひとつ見ていく。水着姿の自分の写真や、真剣な表情でショッピングをする友人。しかし、どの写真にも少女は満面の笑みを浮かべていなかった。いや、あの時は笑顔を浮かべる余裕はない。

 三週間という時間は意外に長く感じられ、四日ほどオーバーしてしまったことは今思えば、少女にとっては苦痛の何物でもなかった。卒業旅行という名目で行ったのであるが、正直いって楽しいと感じることができない。この旅行で楽しかったのは、友人の二人だろう。

(何だろう、本当に……)

 予定を立てるまでは、本当に良かった。しかし友人達の予想外の行動によって予定が大幅に狂いだし、計画通りに物事が進まなかった。どのように間違えて、このようなことになってしまったのか。大きな原因は、買い物の回数。毎日のように行い、一日の大半はこれで過ごした。

 物事が予定通りに運んでいたら、それは素晴らしい旅行になっていたに違いない。だが狂った計画は誤算を招き、行きたいと思っていた場所の半分も行っていない。観光より買い物。これなら一人旅をしていた方が良かったと、少女は今更ながら激しく後悔してしまう。

(だから、卒論も計画的にいかないのかな。これで卒業後、仕事を行うのだから……心配……)

 卒業まで残り二ヵ月半。それだというのに友人達は、卒論を全く書いていない。はじめから「卒論を見る」という感覚を持っているらしく、残念ながらそれは無理が大きい。今まで何とか誤魔化してきたが、今回はそのことは許されない。何せ、卒業論文。その価値は大きい。

 相変わらず同じテーマを選び、それを“写す”と、騒いでいる。教授は特に何も言っていないが、内心は怒っているに違いない。そのことに関して、少女以外の生徒も知っていた。だからこそ、影で噂をする。だからこそ内容が少女と一致したら、問答無用で留年が決定する。

 将来のことを考えれば、その方がいいだろう。多くの者が懸命に卒論を仕上げているというのに、彼女達は悠々自適な生活を送っているのだから。毎日のように遊んで卒業できるほど、少女が通うアカデミーの教授達は甘くはない。寧ろこのような生徒に、対し厳しい処置を行う。

 故に、未来は暗い。

 最後の最後まで、面倒を見ることはできない。卒業を控えた少女は忙しく、何より厳しい父親を持っているのが、一番の原因であった。他人の卒論を手伝っていると知ったら、何と言われるだろうか。厳格な父親は、そういう行為を嫌う。内心は、堅物に等しい人物だからだ。


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あきゅろす。
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