8月企画 お題:花火 不夜城 『親友?』 「藤田、花火いこうぜ」 放課後。ケンジは何の前触れもなくそういった。 「…唐突だな」 「まぁいいじゃん。行くだろ?」 「行くけど…どこでやるんだよ? ここらへんのは大抵終わっただろ?」 夏休みも終わり、暑さののこる8月28日。今年は花火も夏祭りも行けなかった なー、と寂しく思ってはいた。しかし、こんなにも唐突に誘われるとは。 「ちょっと遠いんだけどさ。えーと裡町のほう」 「すげぇ遠いし」 「電車代おごるから」 「いや…いいよ」 「そ? じゃあ、明日の7時に駅な」 「わかった」 ケンジはあらかじめ予定をたてていたのか、花火のことはとんとん拍子に話は進 み、その話はそこで終わった。 18時まではぼーっとすごして、甚平に着替える。ケンジから甚平でこいとお達し がでたのだ。別になんでもいいじゃねーかとおもったが、有無を言わせずケンジ はいってしまった。 都合のいいことに親が勝手に買った甚平があったので、それを着ていくことにす る。 出発間近で、なんだかドキドキしてきた。夏祭りにもいけず、宿題のためだけに 会っていた夏休み。夏祭りにさそう勇気がなく、どこにもいかず何もしなかった 。 しかし、夏休みも終わって諦めていた矢先だ。 嬉しくて少し恥ずかしくて、顔から火が出そうだった。 駅につくと、浅黄色の甚平を着たケンジが既にいた。 「よう藤田」 「ん」 ケンジが手をあげて近づいてくる。 「それ似合うな。甚平で来た甲斐あったわ」 俺の、青の甚平の袖をひっぱるケンジ。お袋に感謝。 「いくか」 ケンジは言って、改札をくぐった。 会場につくと、花火ははじまっていて、爆音とともに美しい花をさかせていた。 「きれーだな」 ケンジが言う。ああ、と答えて、俺は少し目をそらせた。 美しい花は、より美しいものになっていき、終わりが近いことを教える。 俺は、一つの決意をした。 「ケンジ。告白したいことあんだけどさ」 「ふうん?」 花火を見る振りをして、平静を装う。 大きな花火が、一つ空に咲く。 「実は俺、ケンジのこと――」 もうひとつ、大きな花火が咲いて、声が、聞こえない。 『好きなんだ』 花火にかき消されて、ケンジにとどいたかどうかはわからない。 でも、ケンジの口も、俺と同じようにうごいたようにみえたのは―― 気のせいだろうか? 不夜城 ギャグ日 狼男組 [*前へ][次へ#] |