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Luke + Guy
音を奏で、声を乗せて
KOKIAの5つ目の季節の歌詞を見て思いついた話。しんみりしてます。現代パロ。ガイ死ネタなので注意!




街が柔らかな白に染められ、肌寒い爽やかな風が頬を撫でる季節。風に揺られて舞い散る落葉はあまりにも呆気なく、そしてどこか哀愁を漂わせる。葉が全て舞い散ってしまったかのような空虚な部屋に鳴り響く旋律。音の主は美しい金髪を輝かせ、海のように静かな碧眼を持つひとりの青年。彼の指によって奏でられるそれは、まるで彼の心を表しているかのような、寂しく、か細い音。そこに加わるのは明るく印象的な、まだ少し声の高い少年の歌声。聴いているこちらが元気になるようなそんな歌声。声の主は燃えるような赤髪を持ち、吸い込まれそうになる緑の瞳をしたひとりの少年。彼の口から発せられる歌声は、その旋律に命を吹き込んでいた。それに比例するかのように、最初はか細い音を奏でていた彼の指にも力が入り、力強い音になる。彼の心の叫びかのように。それに応えるように歌声も強く、生き生きと響き渡った。
その曲が終わると同時に、金髪碧眼の青年と赤髪緑眼の少年が顔を見合わせ、ふっと笑った。

「ルークの歌声は相変わらずバカみたいに元気だな、はは」

「…なんか褒められてる気がしねーんだけど」

「褒めてるんだよ。ほら、喜べって!」

「素直に喜べねーよっ!」

ルークという赤髪の少年とガイという金髪の青年は、面白おかしく、いつもと変わりない会話の応酬をした。ルークの軽い怒号にガイはただ笑う。ルークもまたむすっとした表情を浮かべたかと思えば、すぐに笑った。そして窓の外を見上げる。しんしんと降り続ける淡い雪。地に着けば呆気なく、一瞬にして形を無くし消えてしまう。そうして作られた一面に広がる美しい銀色の世界。

「…もう、4つ目の季節になるんだな」

「…ああ、そうだなぁ。…って、何でおまえが悲しそうな顔をするんだよ」

「何でって、だって…!」

朗らかな笑みを浮かべるガイと、悲痛な表情を浮かべるルーク。あまりに対照的なふたりの心境は複雑だった。今にも泣き出しそうな顔をし、ルークは感情のままに叫ぶ。

「次の季節が来る頃にはもう、おまえはいねーんだぞ!」

「…わかっているさ。だからこそ、今を大事にしてるんじゃないか。おまえとの時間も、さ」

ガイは立ち上がるとルークに歩み寄り、顔を俯かせてしまった彼の頭を撫でた。その眼は親愛に満ちており、しかし悲しみが滲み出ていた。
ふたりの始まりは、とある音楽教室でのことだった。ひらひらと美しくも虚しく舞い散る桜を横目に見ながら、ガイが教室に居残りピアノで音を奏でていると、とある少年から話し掛けられた。

「綺麗な音を弾くよな、おまえ」

「…ありがとう。君は?」

「俺はルーク。ルーク・フォン・ファブレってんだ。歌手を目指してる」

「へぇ、立派な夢じゃないか!俺はガイ。ガイ・セシルだ。よろしく」

そう言ってふたりは握手を交わした。それが、彼らの邂逅。1つ目の季節、出会いの季節、春の訪れだった。
ふたりはどこか気が合うようで、瞬く間に親しくなった。時々消極的になるけれど、明るく素直な性格をしているルーク。温厚で誰にでも優しく、好かれやすい性格をしているガイ。お互いに良き理解者になり、初めて会った気がしないとまで言うほどだった。ふたりでいる時間は穏やかで居心地が良く、笑顔が絶えない。隣にいるだけで満たされる気がした。
音楽のことに関しても盛り上がった。ガイが伴奏を担当し、ルークがその曲に命を吹き込む。するとふたつだけではない、様々な音が響き渡り彼らを包む。本当に楽しげに、彼らは心を通わせあった。
ふたりが仲を深め合い、蝉達もまた大合唱をする2つ目の季節を迎えた時。真剣な表情をしたガイに大事な話があると言われ、ルークは疑問を抱きながらもそれに応じた。そうして告げられた真実は、あまりにも残酷な物だった。
ガイは、5つ目の季節にこの世を去る。
そう唐突に告げられたルークの額に、夏の暑さのせいではない汗がたらりと垂れる。口の中が乾き、声を発することができない。命の鼓動がどくんどくんと忙しなく波打つ。この身体を流れる赤い血が、熱い。自身の周辺の酸素を全て吸い込まれてしまったかのように息苦しい。自分が今、どんな表情をしているかなんて、わからなかった。
ルークの目の前にいるガイが、悲しげに、ふっと笑い掛けた。

「はは、悪いな。びっくりしたろ?」

「…冗談じゃ、ないん、だな」

「……ああ」

ガイは一層低い声でそう返事をし、ぽつりぽつりとルークに事情を話し出す。
ガイは元々病弱体質で、幼少期からずっと命の危機と共に生きてきた。学校では体育に参加できないのは勿論、少し走るだけで息切れをする。病気をしがちで常に気を張り続けなければならない。同級生とは異なる体質、孤独感や疎外感などを抱くこともそう少なくはなく精神的不安もあり、心細い思いもしてきた。
そうして生きてきて、いつしか21歳になり、医者から告げられた残酷な一言。

『残念ながら、お亡くなりになられるのは…今から5つ目の季節でしょう』

その言葉にガイは特に動揺することもなく、ただ冷静に、そうですか、と返しただけだった。彼は薄々勘付いていたのだ。自分の命がもう永くはないことを。日に日に弱まっていく生命力。自分の中で命の鼓動を刻む音が止まってしまうのも、そう遅くはないと。どれだけ生を渇望しても努力をしても、都合の良い奇跡なんて起こりえないと。
何もしないでこの世を去るのだけは嫌だ。何か自分が生きていた証を残したい。ここにいたと伝えたい。そう考えたガイは、ピアノを弾き始めた。彼の姉がピアノを習っていたためある程度は弾くことができた。素質もあると言われた。ならば、それしかない。自分の命の音を響かせたい。誰かに届けたい。
本来ならば入院し療養生活を送らねばならないのだが、両親は残り少ない人生に華を咲かせたいと、自分なりに生きたいというガイを尊重したのだ。
そうして、近場の音楽教室に通い始め、ガイはルークという光に出会った。

「生きたいと思えるようになったのは、おまえのおかげなんだよ。ルーク」

ガイの言葉にルークは、え、と声を漏らした。
もはや生きる意味もなく、ただ空虚な心で生きるということに執着していたガイの音譜を完成させてくれたのは、他でもないルークだった。ルークがその声で生きる気力を与えてくれた。仕方がないと諦めていた命の音をもっと響かせたいと思うようになった。永遠に終わることのない何枚にも渡る旋律を懸命に。それが叶わぬ夢だとしても、だ。彼が自分が奏でる自己満足に過ぎない音を好きだと言ってくれたから。
ルークが歌として命をくれたのだ。活力に満ちた気高く輝かしい命。その命をこの場所で輝かせることができるようになった。散り際になって新たな素敵な居場所ができた。見たこともない新しい世界が見えた。ルークが手を引いて、この世界を見せてくれた。
本人は自覚はなくとも、ガイは救われていた。そして彼は思った。誰かに命を吹き込むことができる声を世界中に響かせれば、より多くの人々の心を救済できる歌手になれるだろう。そんな確信を彼は抱いていた。
それから2つ目と3つ目の季節が過ぎ去り、今。ガイが余命を告げられてから、4つ目の季節になる。もう時間は残されていなかった。

「ありがとう、ルーク。俺が死ぬってわかってて、それでも傍にいてくれるなんてな」

「…っ…当たり前だろ!俺は、ガイが死ぬまでずっと一緒にいてやるって決めたんだ。いや…死んだ後もずっと、ずっとだ。俺が、ガイの分だって生きてやるからな!」

悲痛な表情を浮かべそうになるもそれを心の奥底に仕舞い込み、ルークはいつもの笑顔を浮かべてそう約束した。最も苦痛を感じているのは他でもない、目の前にいるガイなのだ。死への恐怖、生への希望、叶わぬ未来。やりたいことも山ほどあっただろう。それでもガイは、苦痛に塗れた表情など一切見せず、笑顔を浮かべてきたのだ。だから、当事者ではない自分が彼を悲しませる表情をしてはいけない。笑顔でガイを見届けなければならない。ルークはそう思い、悲痛な表情を浮かべることを控えていた。
だから今も、ガイに笑みを向けた。ガイはそんなルークに、再び感謝の言葉を述べた。全てをわかっているかのように、見透かすように。ルークもまた、そんなガイの気遣いに救われていた。
そうして月日は流れ、とうとう、5つ目の季節が訪れた。別れと出会いの、季節。
ルークは時間の許す限りガイと過ごすようになった。少しでも間を埋めるように。思い出を幾重にも重ね、お互いの存在を確認するかのように。精一杯、生きる音を響かせて。

「俺さ、ガイと一緒に…デビューしたかったんだぜ」

「はは、考えてることは同じだったか。俺もさ、ルーク」

「マジかよ!……そうだ!今からコンサートしようぜ!」

「コンサートって、おまえなぁ…」

皆が帰宅した夕日が差し込む音楽教室にふたりの影。いつものように居残ってふたりして合わせていると、突然ルークがそんなことを言い出した。あまりに唐突でガイが苦笑いを浮かべつつも、彼の提案に乗ることにした。
最期に、観客も誰もいないたったふたりだけのコンサート。ふたりがお気に入りの歌を奏でる。ピアノの美しく力強い伴奏。どこまでも響き渡るような歌声。そこに観客がいれば彼らは聞き惚れたことだろう。ふたりが作り上げる世界に。
ガイは感謝の気持ちを込めてただ弾いた。笑顔で言の葉を奏でるルークと時折顔を合わせながら。
彼との思い出は僅か短期間だったが山ほどある。高校生であるルークは勉強が嫌いで、大学生であるガイが教えてやり、肝心の音楽教室でやるべきことをやらない日もあったり、病弱体質だからと外出できない自分を無理させない程度に遊びに行かせてくれたり。時にはお互いの苦悩を吐き出しあい、解決策を見出そうと頭を悩ませたり。お互いの家にも遊びに行ったりした。ルークがガイに与えたものも、ガイがルークに与えたものも、いずれも彼らにとって多大な影響を与え、大切なものを得たのだ。
ガイはもう怖くはなかった。あれほど死が恐ろしかったというのに、今はもう恐怖感など消え失せていた。命の音を響かせることはもうないけれど、この音を聴いてくれた人がいる。いつか自分の声や顔を思い出せなくなったとしても、音を覚えてくれている。ガイにとって、それだけでよかったのだ。それこそが、ガイが生きていた証。
この曲は、未来への歌。見果てぬ未来と夢。どこまでも飛んで行ける気がする歌。たったふたりで奏でる交響曲。いつかは演奏者がいなくなる、命の鼓動と旋律。ガイは先に舞台を降りる。歓声も拍手も賛美の声もない舞台を。それでもルークが自分の姿を目に焼き付けてくれる。一緒の舞台に立っていた。見送ってくれる。それだけで嬉しかった。
ガイにはもう後悔はなかった。窮屈で不安だらけで、苦しい思いもたくさんした。けれど、家族からの無償の愛を与えられ、誇らしい親友と出会えた、そんな温かい人生だった。思い残すことは、ない。ただひとつの後悔は、歌手になったルークをこの目で見ることが叶わぬこと。
思うがままに全てを込めて弾き終わり、ガイはルークを見た。ルークもどこか満ちた表情を浮かべており、笑っていた。その輝かしい未来ある姿を見て、ガイの口から自然に言葉が漏れた。それは何度も彼に伝えてきた言葉。

「…ありがとう、ルーク」

頬を流れる涙には、気づかないまま。




「なぁ、もうガイと出会ってから…数えるのが面倒になっちまう季節だぜ」

空を見上げれば人を突き刺すかのような容赦のない眩しい太陽の日差しに、頬を撫で吹き抜ける冷たく優しい風。その風によってそよそよと揺らぐ新緑の木々。それを伴奏に響き渡る蝉達の大合唱。精一杯生きている声。鮮やかに晴れ渡る青空。覆い被さる流れゆく雲。行き交う人々の声が、歓声に聞こえた。
ルークはそんな賑わう街中を歩いていた。世間はお盆休みで家族連れが多い中。少しの花束を手に、目的地は、美しく爽やかな緑に覆われたとある場所。
ガイの、墓前。
医者の宣告通り、ガイは5つ目の季節に眠るように静かに旅立った。あれが、ガイとの最初で最期のコンサートになった。
ガイには届いていただろうか。あの歌に乗せた気持ちが。言葉などでは伝えきれなかったから、歌にして彼に向けた。ありがとうというたった一言ではあまりに足りなさすぎる。だから。
ルークもまたガイに救われたいたのだ。音楽教室に通うつもりなんて皆無だった。両親から半ば強引に通わされ、目的も夢もなかった。せめてと思って歌手になりたいという偽りの夢を言葉にした。そうして両親の不安を和らげた。ルークは何にもなりたくなかったのだ。
しかし、1つ目の季節。ガイと出会ってから、初めて心の底から歌手になりたいという願望を抱いた。何故なら、歌声を褒められたから。教師からは才能があると褒められていたが、自信なんてなかった。所詮はお世辞だと思い込んでいた。けれど、ガイがルークに伝えたたった一言で、ルークの世界は一変したのだ。

「ルークの歌声、すごく元気づけられるんだ。だから俺の伴奏にも力が入ってすごく良い曲になる。おかげで楽しいぜ、ルーク」

ガイは笑顔で嘘偽りなくそう言った。それは単純で真っ直ぐな、本当に喜ばしい言葉で、ルークは自身が誰かを救うことができていると知った。それから歌うことがとても楽しくなった。歌うことに意味を見出した。ガイの笑顔があったからこそ、今のルークがいるのだ。
ガイがうたう意味を教えてくれた。楽しさを、難しさを、誰かと合わせてうたうことの大切さを。音楽とは、ガイにとっても輝ける場所となり ルークにとっても輝ける場所になった。お互いの個性が煌めく居場所。お互いを尊重し合う居場所に。
ガイはルークに旅立つ翼を与え、ルークもまたガイに翼を与えていたのだ。

「いろいろ話したくて来たけどさ…やっぱ俺、ガイの墓前に語り掛けるなんて、お断りだ」

ルークはガイの墓前に花――千日紅――を供え、ふっと笑ってそう言った。こんなのは柄じゃない、俺には俺の伝え方がある。そう思い、ルークはすぅっと息を吸い込み、言の葉を乗せた。
ずっとガイを見守り続けた。静かな親愛に気づいた。ありがとう。ずっと見ていてほしい。いくつになっても見ていてほしいときがあるんだ。これが俺の気持ちだから。ありがとうのかわりに俺を見ていてほしい。言葉では伝えきれない。だからこそがんばれるんだ。
5つ目の季節から3年後。歌手になったルークの歌声は、ガイが好きだといったままだった。それは風に乗って、とおく、とおくへ。そうしていつか、彼の元へ。爽やかな風が、ルークを包んだ。









死ネタだけどどこか救いのあるようにしたくてうまい具合に終わらせたつもりです。
最初はガイの状態が快復するっていう展開も考えたんですが、死なせた方が話の展開的にはいい気がしたので死なせました。しかし書いててすげー寂しくなった_(;3」∠ )_
ルークが毎年お墓参りに来てないのかみたいな言い草ですが、時間があれば来ている程度。初めて来たみたいになってますが(´∀`)
途中二人が演奏した曲はまたしてもKOKIAのかわらないこと〜since1976〜です。最後にルークが歌ったのもこの曲です。5つ目の季節も素敵ですがこちらも素敵な歌なのでぜひ!
ちなみに千日紅の花言葉は『終わりなき友情』です。
2013.9.23


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あきゅろす。
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