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Luke + Guy
もう一歩、踏み出して
『一歩踏み出して』と『届かない距離、心は側に』の間の話になります。
唯一偏見のないメイドとルークの話。一応オリキャラなので苦手な方はご注意を!




ヴァン師匠を倒し、オールドラントを無事救ってから早数日。相変わらず俺は何もせずにベッドに横になっていた。

「はぁ……」

自分の情けなさに思わず深い溜息をつき、布団に潜り込む。あの戦いを終えてから既に一週間経っていた。ヴァン師匠を倒し世界を救ったんだと誰かに言っても、この状態を見れば誰も信じないだろう。
布団の上から可愛らしいが甲高く、少々うざったい声が掛けられた。

「ご主人様、今日はどうするんですの?」

「…何もしねぇ。何かしたいならおまえだけで屋敷ぶらついてこいよ」

「みゅ?いいんですの!?嬉しいですの!行ってくるですの!」

俺の言葉にミュウは喜びのあまりぴょこぴょこと跳びはねながら部屋を去って行った。ここに帰ってきた当時は俺の屋敷に興味津々らしく、大きな目をきらきらと輝かせ落ち着きがなかった。今ではマシだが。しかし勝手にしろと言ったのは俺なのに、なんだかミュウにまで見捨てられた気分だ。そう思ってしまう程、俺の精神は弱っていた。
このファブレ公爵邸に俺の居場所はあるけど居場所はない。精神が弱っているのはそう感じるためだ。何故そう感じるかと言うと、理由が直ぐにやって来た。
ミュウと入れ違い様に、メイドが扉の前から声を掛けてきた。

「あ、あの、ルーク様…お食事をお持ちしました」

「ん、ああ。入れ」

布団から出て俺がそう指示すると、ゆっくりと扉が開かれメイドが昼食を手に部屋へ入ってきた。

「そこに置いといてくれ」

「は、はい。失礼致しました…」

そう言ってメイドは昼食を置くと、俺と一度も目を合わさずに出て行った。
理由はこれなんだ。
俺がここに戻ってきて、俺が本物のルークではなくレプリカである事は当然明らかにされた。それからメイド達や白光騎士団の俺に対する態度が急変したのだ。当然と言えば当然かもしれない。これが世間の目なのだ。俺の仲間達や周りの人達が特別だっただけで。
皆が俺を否定している。恐怖感、不信感、怒り。そんな感情が彼らと接していてひしひしと伝わってくるのだ。恐々と態度を隠そうとしている者もいれば、俺に対する嫌悪感を全く隠さない者もいる。皆は本物のルーク…アッシュを求めているんだ。ここは俺がいるべき居場所ではない。アッシュがいるべきなんだ。俺だってそう考えている。
だけど、今までと変わりなく、偏見や軽蔑をせずに接してくれる者もいる。そんな彼らの存在が、存在に自信を無くした俺には唯一の救いで有り難かった。今のところ、片手で数えられるだけだが。
再びこんこんと、扉をノックする音が耳に入った。部屋に入るように促す。

「お邪魔します、ルーク様」

「なんだ、ベルタか」

俺が名を呼ぶと彼女はにこりと笑みを浮かべた。ベルタ。彼女は片手で数えられる内の一人だ。メイドの中でもベルタだけが俺に対して普段通り接してくれる。

「さっきの子がルーク様のお飲み物を忘れちゃったので、お持ちしました」

「…俺のことが怖くて緊張してたんだろ、多分」

「ルーク様ったらほんとネガティブになられましたよね。我が儘言いたい放題だった貴方はどこに行かれたのですか?」

こいつはこうしてメイドの立場ながら親しく言葉を掛けてくる。俺の他に別の人間がいる時はさすがに弁えているが。だけどガイといる時は別だ。砕けた口調で話し掛けてくるので俺も気が楽で助かる。本来なら許されざる行為で注意しなくてはならないのだろうが、俺自身も昔、ガイに敬語をやめろと命令したのだし。

「早くお食べにならないと、私が食べちゃいますよ?こんな豪華な物を毎日食べられて羨ましいんだから」

「いらねぇからおまえが食えよ。腹減ってないんだ」

「…ガイがいなくなってさびしいですか」

まるで俺の心を覗き込んだかのように的確な言葉を口にしたので、俺は驚きの余り目を見開き間抜けな声を出してしまった。

「はぁ!?さ、寂しくなんか…!」

「あはは!気付いてないと思ってました?だってルーク様、帰ってきてから暇そうにしてるんですもん」

ベルタの言う通り確かに暇を持て余していたが。何かを行動を起こそうとしても身体が動かなくて、部屋に篭ってばかりいた。以前はガイと話したり剣術をしていたりしていたのだ。その時間が丸きり無くなり、どうしたらいいかわからなくて。咄嗟に否定したが、俺は寂しいのかもしれない。
剣術に関しては見回りをしている白光騎士団のアーベルとクレマン、ロレンツも相手はしてくれるが、こちらからは何だか話し掛けづらいのだ。ちなみにその三人だけが白光騎士団の中で俺に対して以前と同じ態度で接してくれている。気軽に話し掛けることができればいいのだが、自分はレプリカだと言う意識がそれを阻むのだ。

「私も剣術ができればよかったんですけどね。ただのしがないメイドですし」

そう言ってベルタは苦笑いを浮かべ、見よう見真似で剣を振るう動作をして見せた。その姿が滑稽で少し笑ってしまう。それに気付いた彼女もまた笑った。

「ガイが言ってくれたんでしょう?ルーク様はルーク様だって」

「な…何でおまえ、そんなこと知って…」

「ミュウくんから聞きました」

「あんのブタザル…!」

余計なことを話すべきではなかった、と心底後悔した。屋敷にいる間、暇潰しにとミュウと旅の最中の話をしていたのだ。その際にぽろっと零してしまったのが間違いだった。後でこれでもかと言うほど引っ張ってやる。

「ガイの言う通りじゃないですか。私にとってもルーク様はルーク様です。アーベルとクレマンやロレンツにとってもそれは同じだし」

ベルタは優しげな眼差しと穏やかな笑みを俺に向けた。それは紛れも無く、俺という存在を肯定してくれる態度。それはまるでここにいて当然とでも言うような。この屋敷に帰ってきてから自身の存在を疑ってばかりだったが、彼女の言葉と態度で少し自信が持てた気がした。

「…ああ。それもそうだな!」

「ふふん!ルーク様を励ましたってことをガイに話したら、ガイからの株が急上昇ですね、私!」

「しゃーねぇなぁ…今度話といてやるよ」

「やった!ありがとうございますっ!」

「…ありがとう、気にかけてくれて」

「いえ!ていうか、ルーク様からお礼言われたの初めてかも」

「うっ…そうだったかも…。ごめんな、今まで」

「ふふ、いいんです。私、傍若無人で我が儘な手の付けられない昔のルーク様も好きですから」

「…嫌味か、それ」

白けた視線を向けたが彼女にはしっかり気持ちが伝わっていたらしく、悪戯な笑みを浮かべた。誰かにそう言ってもらえるだけでどれだけ嬉しく、救われることか。まだ俺は立っていられる。
そうだ。今からアーベルとクレマンに剣術の相手をしてもらおう。突然の誘いに驚くかもしれないが、一緒に。身体を動かせば腹も減る。飯はもう冷めてるかもしれないが、食べてしまおう。せっかく用意してくれたんだ。
ガイ。話すことなんて全然なかったけど、ちゃんとできたぜ。俺に向けられる否定の視線はまだ怖いけど、向き合ってみる。少しだけ、前へ。




もう一歩、踏み出して




第二部終了後のファブレ公爵邸でメイドや白光騎士団と会話して思い付いた話でした。メイドの中に一人だけ釈然と怯えることもなく「いってらっしゃいませ」って言ってくれた子がいたので。白光騎士団も門番を省けば二人だけ普通に話してくれました。
書いてて「あれ?これ夢小説でもできんじゃね?」と思ってしまった(^o^)メイドの中にこういう子が居てもいいな〜と夢見た結果である
ちなみに名前はヨーロッパの人名から適当に選んで決めました。
2013.12.30


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あきゅろす。
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