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Luke + Guy
必要なひと
前に書いた『指切り』の話とは違い、ガイに本当に彼女が出来てしまう話です。ハッピーエンドなのでご安心を!ちなみに『指切り』とは世界が違います
ガイの彼女には名前が付いてますが話には登場しません。予想以上に長くなってしまったので2ページに分けました







最初は当然嬉しく思い、心から喜んだ。親友が幸せを手に入れたことを。そして応援し、背中を押してやった。もっともっと幸せになってほしかったから。
けれど後から後悔してしまった。気付いてしまったのだ。俺が幸せだった時間を犠牲にしているのだと。




「えっ…ってことは、おまえ彼女出来たのかよ!?」

「こら!声が大きいって!」

「あ、ご、ごめん…びっくりして…」

俺の声に教室中に響き渡り、教室にいるクラスメイトが全員がこちらを振り向く。そして女子が近寄ってくる。…後悔した。あんなでかい声出すんじゃなかった…いくら驚いて椅子から落ちそうになったとはいえ。
近寄ってきた女子達が俺の机の前に立つガイに話し掛ける。

「あの……ガイ先輩。彼女…出来たんですか?」

「あ、ああ…まぁね」

ガイは苦笑いを浮かべながらも頷いた。その反応に女子達は黄色い歓声を上げた。間近で甲高い声が耳に入ってきたので鼓膜が破れるかと思わず片耳を塞いだ。

「ホントに!?あのっ、相手は誰なんですか!?」

「同級生のチサって言うんだが…」

「あーん残念!あたしガイ先輩のこと密かに狙ってたのに!けど、チサ先輩なら仕方ないか」

「どっちから告白したんですか!?」

「ズバリ!チサ先輩の好きなところは!?」

本当に女子はこういう色恋沙汰の話が好きなんだなと実感した。大盛り上がりだ。ガイは質問攻めに合いたじたじだ。そんなガイの姿をあまり見たことがなかったため、可笑しくて思わず笑ってしまった。
チサ先輩という人はクラスは違うがガイの同級生で、綺麗だけど可愛らしさも兼ね備えた明るいムードメーカー的な先輩だ。前々からガイと関わりがあったため、俺も何度かお会いして話したことがある。クラスでも人気者だそうだが、彼女は本当に良い人だったし納得できた。
そんなチサ先輩はいわゆる一目惚れというやつで、以前からガイに好意を抱いていたらしい。だから少しでも近付きたくて、積極的に話し掛け努力を重ねた結果、彼女というポジションをゲットした。ガイも彼女のことが好きだという感情がいつの間にか芽生えており、告白されたとき即OKしたんだとか。

「お、おっと!もうそろそろチャイムが鳴りそうだから教室に戻るよ!じゃ!」

「チャイム鳴るまで後5分あんぞー!」

「うるさいなー!ほっとけ!」

そう言ってガイは教室を飛び出して行った。恥ずかしさのあまり居心地が悪くなり逃げ出したのだろう。珍しいことに少し赤面していたし。

「照れるガイ先輩かわいい!」

「へへ、しばらくはこのネタでからかってやるか!」

「あはは、そうだね!ルー君もガイ先輩の背中押してあげてよ?二人が幸せになれるように!」

「わかってるよ。つーかその呼び方やめろってーの!」

それからというもの、中々二人きりになれない二人を無理矢理二人きりにしたり、普段は人に甘えたりしないガイがチサ先輩に甘えるようになったり、惚気話を聞くはめになったり、とにかく色んな事があった。みんなで面白おかしく茶化したりして騒いだ。見ているこっちが恥ずかしくなるような事も多々あったが、二人が幸せそうに笑みを浮かべるのでなんだか暖かい気持ちになれた。二人が幸せなら俺も幸せだ。そう思っていた。…はずだった。

「なーガイ!今週の日曜日さ…」

「悪いなルーク、その日もチサと遊ぶ予定でな…」

ガイがチサ先輩と付き合い始めてから、こんなことがよく起きるようになった。
俺がガイを誘うと、ほとんど断られてしまうようになったのだ。なるべく彼女との時間を優先したいのは当然だ。その方が愛を感じることができて幸せなんだろうし。
けど、俺はどこか寂しかった。

「そっか…なら仕方ないな!」

寂しげな感情を隠すように俺は笑顔を浮かべた。ガイに心配をかけてはいけない。余計な悩みを増やさせてはいけない。幸せに浸ってほしいから。

「本当に悪いルーク!いずれこの埋め合わせは…」

「いいってそんなの!それじゃ俺、先に帰るよ。また明日な!」

「ああ!また明日!」

お互いに笑顔で別れ、俺は先に帰路へついた。
…最近は、ずっとひとりだ。登校時も下校時も、ガイに彼女が出来るまではずっとふたりだった。ガイの隣は、今はもうチサ先輩のものだ。割り込むことなんてできない。俺の隣に誰もいないことがひどく寂しく思えた。
学校での休み時間もそうだ。今までは暇さえあればどちらかの学年の教室前へ来て、ふたり廊下で談笑していた。けど今は…ガイが来てくれることはなくなった。こっそり様子を見に行ってみれば、ガイはチサ先輩とずっと話に花を咲かせていた。幸せそうな笑みを浮かべて。
メールもそうだ。二人が付き合い始めて以来、来なくなった。毎日というわけではないが、ガイからよくメールが来ていて相手をしていた。俺からもメールを送っていたが、必ず返事をしてくれていたガイから返事が来なくなった。きっと彼女に夢中なんだ。二人が付き合い始めて1ヶ月以上が経つんだ。…仕方がないんだ。

「…ひとりって、こんなに…寂しかったっけ…」

夕焼け空を見上げ、ひとり、呟いた。
俺もあの夕焼け空のように、忘れ去られるように消えていってしまうのだろうか。



ガイとチサ先輩が付き合い始めてからもうすぐ2ヶ月が経つ。二人の恋路は順調で彼らの表情や雰囲気は晴れやかだ。しかしそれとは正反対に、俺の心はどんよりと曇っていた。

「…はぁ」

朝、目覚めてから俺は溜息をつくようになってしまった。今の立場に疲れてきていたのだ。二人の盛り上げ役に。
二人が談笑する様子は付き合い始めの頃は皆無だった。恥ずかしさのあまり目を合わせてもすぐに逸らし、その繰り返しで。だから俺は二人の距離を縮めようと盛り上げ役を務めた。二人でいることを楽しんでもらいたかったから。俺が話をしていれば二人も徐々に慣れ、話すようになるだろう。そう思って。努力の甲斐あってか二人は目を逸らしたくなるくらい熱い仲となった。俺がいてもいなくてもほぼ変わりない。
…そうだ。きっと俺はいない方がいい。もう必要ないんだ。もう二人で楽しく幸せに過ごせる。二人きりにさせた方がいいに決まってる。だから暫く二人から離れよう。それがいい。
クラスでも毎日のようにガイとチサ先輩はどうなんだと聞かれ、ただの連絡役として扱われていた。その役目にも疲れていた。重荷だと感じていた。だから離れるにはちょうどいいんじゃないか。ガイとチサ先輩を二人きりにさせない、空気が読めていない奴だと思われている周りからの視線も痛かった。これでいいんだ。
そう思い、俺は朝飯も食わず学校へと向かった。
俺と二人が家を出る時間がほとんど変わらないようで、毎朝のように二人で登校しているのを見掛けていたが、なんだか日が経つにつれ徐々に胸がもやもやするようになった。だから家を出る時間をずらし、早く行くようになった。そして学校へ着き、教室へ行き自分の席に腰を下ろし寝るようになった。何もすることがないからだ。
ガイがいる時はずっと話しているだけで楽しかった。暇だと感じなかった。それが今では学校で過ごすほとんどの時間が暇で仕方ない。それだけガイと共にいたのだということを嫌でも実感させられる。

「……カップル、か…」

誰もいない教室で、ぼそりと呟いた。
ふと思い出し、財布に突っ込まれていたある物を見つめた。ガイとふたりで映画を見に行こうと思って、バイトで稼いだ僅かな給料で購入した2枚のチケット。ガイが見に行きたいと何度も言っていた映画。普段と違い良い席を取ったので少し値段が張った。いつものお礼にと思って慣れないバイトで手に入れた、大切なチケット。
…そうだ。これをガイに渡して、彼女と映画に行くことを勧めよう。それがいい。二人の距離はさらに縮まるだろう。より幸せになれるはず。
帰り際に渡そうと思い、財布へ戻した。
窓の外を見れば朝日がやけに綺麗で、涙が零れそうになった。

授業が全て終わり、俺はガイの元へと急いで廊下を駆け抜けた。授業が終了した直後のため人ごみで中々二人を見つけることができない。人の波を掻き分けようやく二人を見つけ出す。すると、二人は談笑していた。これが日常になったんだ。二人にしても、周りの人にしても、…俺にしても。その事実が俺の胸を締め付けた。
ガイに呼び掛け、映画のチケットを2枚渡す。二人で見に行ってこいと。おまえの好きな映画だろと。それを受け取るとガイは本当に嬉しそうな笑顔を浮かべ、お礼を言った。ガイには事情を説明していないから、二人のためにくれたんだと思っているのだろう。バイトを始めたのもただの気まぐれだと思っているはずだ。何もバレていない。これでよかったんだ。
そして俺は、その場を走り去った。



それからだ。俺が、ガイと疎遠になったのは。
学校で出会っても、ガイは俺の存在に気付かなくなっていった。恋は盲目とはよく言ったものだ。あいつはもうチサ先輩に夢中だった。俺に気遣いや心配りをしてくれるガイは、もういなくなってしまった。それが悲しかった。
対して俺も、ガイとチサ先輩にはなるべく近付かなくなっていた。二人でいた方が幸せな時間を過ごせるから。そう信じたから俺は二人から身を引いた。いつも一緒にいたガイから離れた。一番の親友で、俺のことを弟のように可愛がってくれたガイ。先輩の目なんて気にせず俺を遊びに誘ってくれたガイ。頭の悪い俺に勉強を丁寧に教えてくれて、放課後遅くまで一緒に残ってくれたガイ。そんなガイは、もうどこにもいないのだ。
その悩み事のせいか中間テストでの点数は最悪だった。ケアレスミスが多く、回答欄を間違えていたり、テスト中にど忘れしたり。頭の中が混乱していた。食欲もなくなり、食事を残すようになった。とにかく食べなければと思って胃に詰め込んだ結果、吐いてしまったり。原因不明の熱が出たりもした。
俺の日常は、壊れてしまった。いや、自ら壊したようなものか。何にせよ、もう戻らない。時は狂うことなく刻み続ける。過去ばかり見ていても前には進めない。わかっている、わかっているけど――
俺はガイと何を思って何を話して笑っていたんだろうか。何も思い出せない。こうして俺も過去の人物として忘れ去られていくんだろうか。
俺の心はどこまでも沈んでいく。まるで深海のように暗闇に包まれ、押し潰されてしまいそうで息すら満足にできない。右も左もわからない。光すら届かない。誰も手を伸ばしてはくれない。それ以前に俺が堕ちていくことに誰も気付かない。何も見えない。見えるのは、ただ、絶望だけ。
だから俺は、自らに近付く危機にも気付けなかった。
それは、商店街を歩いている時だった。

「財布もーらい!」

「へ?…あっ!おい待て!」

ポケットに突っ込んでいた財布をすられてしまったのだ。ぼんやりしながら歩いていたせいか注意が行き届いていなかった。犯人は三人。集団で走り去っていく。それを慌てて追い掛けた。奴らは路地裏へ逃走した。きっと誘っているのだろう。いいだろう、乗ってやる。そう思い俺も路地裏へと走った。

「…財布、返せよ!」

そう言うと奴らは予想通り殴り掛かってきた。なめるなよ。俺は喧嘩には慣れているし強いんだ。中学の時荒れていた時期があったから。三人ぐらいどうってことない。売られた喧嘩は買うものだ。そう思い喧嘩を引き受けた。全員ボコボコにしてやる。



「こっちは三人なのに向かってくる馬鹿がいるとはなぁ。こりゃ傑作だ、ははっ!」

「かえ、せ…!」

「うるせえなぁっ!」

思い切り腹に蹴りを入れられ咳込む。そして奴らは下品な笑い声をあげながら去って行った。俺の財布を手にして。
俺は情けないことにあっさりやられてしまったのだ。馬鹿だ。最低でも二人ぐらいは倒せるんじゃないかと思い上がっていた。しかし冷静に考えてみれば、俺は食事もろくに取っておらず自己管理が出来ていない万全ではない身体だった。体力も落ちていた。だからこれは当然の結果だった。
身体中が痛い。殴られ蹴られ、しかも相手はナイフを持っていた。刺されなかったのは幸いだが、顔や腕などを切られてしまい傷口からは血が流れ出ている。なんだかそれが涙の代わりのように思えた。
自分が酷く滑稽に思えた。仰向けになり、声を上げて笑った。その声は、ただ虚しく響くだけだった。



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