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「なぁガイ、知ってるか?」

同級生から話し掛けられ、振り向いた。何のことかと尋ねると、別のクラスにいる不良が商店街にて財布をすったらしい。それだけなら俺には何の関係もない興味のない話なのだが、次の一言で血相が変わった。

「すった財布の持ち主が、噂からすればルークなんじゃねぇかって俺は思うんだ」

「ルークが!?」

「まぁ待て落ち着けって!赤毛のやつがって言ってたからさ…ルークの財布ってどんなやつだ?」

聞かれるがままにルークの財布の特徴を答えると、残念そうに溜息をついた。ということはつまり。

「ルークでほぼ確定…か?」

「ああ…残念ながら、な」

もっと詳しい話を聞きたいと言い寄ると、情報通な同級生は答えてくれた。ルークは財布をすられ、取り返そうとそいつらを追い掛けた。しかし暴行を加えられてしまい、結局財布は取り返せなかったという話らしい。
その話を俺は疑った。ルークは喧嘩に強い。そんなルークがやられてしまうなんてあるわけない。

「ルークのことについては俺よりあいつのクラスメイトの方が詳しいだろうし、そっちで聞いてくれ。悪い」

「いや、それが聞けただけでもよかった。ありがとう。屋上に用事を思い出したからちょっと行ってくるよ」

屋上は不良達のたまり場だ。開放されていないにも関わらず、多くの不良が授業を不当な理由でサボり、煙草を吸ったり暴力を振るったりしている無法地帯。おそらくそこにルークの財布をすった奴らもいるはずだ。取り返してやらないと。

「お、おいガイ…!」

「はは、心配しなくても大丈夫さ。無傷で取り返してくるよ」

そう言って俺は屋上へ向かった。
今は2時間目が終わった休み時間。そろそろサボりたくなってくる時間だろう。仲間が多くいるかもしれない。だけどそんなことは関係ない。全てはルークのためだ。
そして俺は、屋上への扉を開いた。
辺りを見渡してみると、不良達はほとんどいなかった。まあ構わない。目的の奴らさえいればいいのだから。歩を進めると目に留まる物があった。ルークの財布だ。続けてそのすぐ側にいる三人の不良が目に入った。恐らくあいつらが犯人だろう。取り返すために彼らに近付いていくと、向こうが先にこちらに気付いた。なるべく怪しまれないように話し掛ける。

「君たちが財布をすったって耳にして、どのくらい手に入れたのか気になってね」

「ああそのことか。見ろよこれ、5万入ってたんだぜ!マジ俺達運いいな!」

財布から乱暴に5万円を取り出すと見せびらかすようにひらひらとさせ、三人とも下品な笑い声を上げた。適当に話を合わせながら財布を見ると、それは確かにルークの財布だった。あの5万は元々財布に入っていた分とバイト代だろう。バイトなんてめんどくさいと言って消極的だったルークが、自ら進んでやると言い出し、受験でもしに行くのかと思うぐらい何度も面接の練習をし、そして受けに行って合格して喜びのあまり俺の家にまで来て報告しに来た。そうして慣れないバイトで苦戦しながらも、ルークが汗水垂らして一生懸命働いて稼いだお金だ。
さて、返してもらおうか。

「それ、よかったら返してもらえないかな?」

そう言うと、彼らの表情が一辺した。そして俺を睨みつけ暴言を吐いた。しかし聞き取りづらいというか翻訳不能な喋り方をするので何を喋っているのかわからない。恐らく「ふざけるな、これは俺たちの物だ。誰が返すものか」などと言っているのだろう。

「なら、力付くで返してもらいますか!」

その言葉を言い終わると同時に三人が一斉に殴り掛かってきた。怒りで冷静な判断ができないためか動きが読めたのですんなりと避けることができた。すれ違いついでに腹に一発お見舞いすると、そいつは腹を押さえてその場に膝を突いた。残る二人が挟み込むように襲い掛かってきたが、ぎりぎりまで引き寄せてからしゃがんで避けると予想通り彼らはお互いを殴ってしまう。その内の一人に蹴りを入れると見事に吹き飛んでくれた。二人がやられてしまい怖じけづいたのか残る一人が掛かってこない。情けない。そう思っていると膝を突いていた奴がふらつきながらも殴り掛かってきたので、拳を受け止めカウンターのように殴り返した。そのようなことが何度か続く。芸がなくてつまらない。ルークはこんな奴らにやられてしまったのか。何があったのだろう。心配だ。そう思いつつ三人の相手を続けた。しばらくすると、不良が声を震わせながらも尋ねてきた。

「て、てめぇは!あのガキとどういう関係なんだ!」

その問いに、俺は不敵な笑みを浮かべて答えた。

「ルークは俺の可愛い弟でね」

すると敵わないと悟ったのか、彼らは無様な走り方で逃げて行った。同じくその場にいた不良達も危険だと思ったのか我先にと逃げていく。その姿が酷く滑稽だった。
俺が喧嘩慣れしているのは、中学時代荒れていたルークを相手にしていたからだ。当然ルークよりも強い。そうでなければやっていられなかった。
財布と現金を回収し、俺はルークのクラスへと向かった。



「ルークはいるかい?」

そうルークのクラスメイトに尋ねると首を振った。どうやら欠席のようだ。しかし詳しく話を聞くと、最近はよく欠席しているという。

「ルークのやつ、サボりやがって…」

「…あの、ルーク君、サボってるわけじゃないと思うんです」

その言葉に疑問を抱いた。ルークが理由もなく、俺に連絡することもなく欠席する時はサボる時だ。中学時代で実証済みだ。どういうことなのか理由を尋ねると、驚くべき答えが返ってきた。
どうも最近、ルークは元気が無かったらしい。いつも明るく元気なルークが、最近はずっと休み時間は机に伏していて、授業中も上の空だったという。それどころか弁当もずっと食べている姿を見掛けておらず、不審に思い理由を尋ねてみれば、ルークは「忘れちまってさ」と答えた。本人は苦笑いを浮かべたつもりだったのだろうけど、全く笑えていなかったようだ。ルークをよく観察してみれば、ずっとつらくて悲しそうな表情を浮かべていたみたいで、悩み事があるのかと尋ねたところ、「何もないんだ」としか答えてくれなかったらしい。様子がおかしいのは一目瞭然だというのに。授業中に発熱し、早退することもあったと聞いた。

「ガイ先輩、ルーク君ともうずっと話してないんじゃないですか?」

「え…ああ、言われてみれば…」

そういえば確かに、ルークとは数週間…いや、1ヶ月近く口を利いていない。チサとずっと一緒にいたからか。ルークという名を口にしたのも、久々だった気がする。

「私たちはルーク君にもう何もしてあげられないんです。ガイ先輩、どうかルーク君をお願いします!」

「俺たちからも、お願いします!」

そうクラスメイト全員から頭を下げられお願いされた。慌てて頭を上げるように言い、彼らに笑みを浮かべた。言われなくてもわかっている、任せておけと。そう言うと彼らは安堵の表情を浮かべた。本当にルークのクラスメイトは良い子達だ。彼らに別れを告げると、廊下を駆け抜け急いで教室に戻り荷物を纏めた。

「ガイ、どうした?」

「大事な用事が出来てな。早退させてもらうよ」

「そうか、行ってこいよ!」

彼は全てを理解しているようで俺を見送ってくれた。他のクラスメイトも同様に。理解があって有り難い。そして俺はルークの家へと急いだ。

俺は自分の幸せに浸ってばかりで、ルークの存在を蔑ろにしていなかったか?親友としての付き合いを忘れてはいなかったか?ルークの時間を壊してしまったのではないか?そんな疑問ばかりが思い浮かんだ。
ルークはいつからか俺たちを避けるようになっていた。俺が話し掛けても適当な理由を付けて自ら遠ざかっていった。もしかしてその行為は、俺たちを気遣ってなのではないか。二人きりにさせた方が楽しいに決まっていると、あいつが勝手に決め付けたのではないか。その方が幸せになれるんだと。だから自分はいない方がいい。そう遠慮して自分を否定して俺から離れたのか?ルークはいつもそうだ。ひとりで悩んでこれしか方法はないんだと決め付けて。
馬鹿野郎が。
そう己とルークに向かって吐き捨て、爪が減り込むほど拳を握り締めた。



息を切らしつつもルークの家へとたどり着く。ルークは両親と共に暮らしているが、仕事に追われ多忙な両親が家で過ごすことはほぼ皆無で、実質一人暮らしのようなものだ。だから俺がよく遊びに来たり泊まりに来たりしていた。ルークひとりだけでは不安だったから。ルークも寂しいと言ったから。しかし彼女が出来てからというもの、一度も来ていなかった。その間ルークはどうしていたのだろう。ひとり寂しく一日を過ごしていたのだろうか。
インターホンを押す。しかしルークが出て来る様子はない。それどころか家に明かりが灯っておらず、心配になった。もう一度押したが様子は変わらず返事もない。思い切って扉を開けてみようか。そうして実践してみると、本当に開いた。鍵をかけていないなんて無用心すぎる。
とにかく家へお邪魔して電気を付け、ルークを呼ぶ。

「ルーク、いるんだろ?」

返事はない。しかし辺りを見渡してみれば、ルークがいた。横たわっておりその姿が目に入った瞬間血の気が引いたが、どうやら横になっているだけらしい。ルークは俺に気付き弾かれたように半身を起き上がらせた。

「ガイ!?おまえなんで…!」

「家の鍵、開けっ放しだったぞ。無用心すぎるだろ、おまえ」

呆れてそう言いながら、取り返した財布をルークに渡す。するとルークは目を見開き財布と俺を交互に見た。

「おまえ、これどうしたんだよ…」

「落ちてたから拾ったんだよ。気をつけろよ、全く」

「そ、そんなはずない!だって俺は…!」

「それはともかくとして、…ルーク。話、聞かせてもらえるか?」

俺はそう言いながらルークの正面に腰を下ろした。事情を聞くために。その言葉にルークは複雑な表情を浮かべ俯いてしまった。そんなルークを俺は見つめ、じっと待った。ルークをよく見てみれば顔や腕など傷や痣だらけだ。それが今のルークの痛々しさを増幅させた。眉間にしわを寄せてしまいそうになったが、笑みを保つ。ルークを安心させるために。
しばらくすると、ルークが口を開いた。

「…本当のことを話せば、ガイは俺を軽蔑する。絶対に。だから…話したくない」

「そんなことあるわけねーよ。どんなルークでもルークだ。受け止めてやるからさ」

そう笑顔を浮かべてルークの肩に手を置くと、ルークは少し安心したのかうっすらと笑みを見せた。それで俺も安心した。ルークが笑ってくれたと。ルークの笑みを目にしたのさえ久々だった。ルークから笑顔を奪ったのは他でもない、俺なのだ、きっと。
ルークは抑揚のない声で、経緯をぽつりぽつりと話し始めた。
ガイに彼女ができたなんて、夢みたいだった。最初は本当に自分のことのように嬉しかったし、精一杯協力してもっと幸せにしてやりたいと思った。けどそれは、ただいい子ぶっただけだったんだと後から気付いた。恋人が出来た親友を幸せにしてやろうと協力しているいい子ちゃんを演じて、負の感情は全て内面に押し止めて。ガイの最高の親友でいるために。けど、本当はきっと嫌だったんだ。
チサ先輩は嫌いではないし好きだ。俺が持っていないものを持ってる人だったし、憧れの存在でもあった。素敵な人だ。ガイにお似合いだと思った。
それがつらかった。俺が持ってないものを全て持っている人が、ガイの隣にいる。ならもう俺はいらないんじゃないか。もちろん恋人と親友の役割の違いぐらいは理解している。けどそう思わずにはいられなかった。
自分の居場所が奪われた。俺は日だまりから弾き出された。そこにはもう入る場所なんてなかった。だから俺には居場所がなくなってしまった。だって家にいたって居場所なんかない。ただそこにひとりでいるだけ。俺は、誰からも必要とされない存在になってしまったのだ。
実際ガイだって俺のことを見てくれなくなった。ガイの目にはもうチサ先輩しか映っていなかった。俺とガイのふたりで話していてもチサ先輩の話ばかり。入り込む隙間などない。寂しかった。こんなことを相談したって無意味だ。何も解決しない。俺が寂しいから、苦しいから別れてくれなんて。そもそもそんなことを考える自分がおかしいのだ。自分を軽蔑した。
本当は相談したかった。けど相談できないことはどうすればいい?俺が今苦悩していることは自分自身の問題だから、自分で解決するしかない。俺自身が振り切るしかないのだ。だけどもどうしたらいいかわからなくて、何もできないからこそより深く悩んだ。
ならばもう離れてしまえばいい。そう思った。だから離れた。けどそうすることで自分の日常を壊してしまった。ふと気付けばいつも二人に関する悩みばかり考え、授業にも集中できなくなった。食欲もなくなった。無理矢理詰め込むと吐くようになった。どうして俺だけこんな目に会わなければならないのかと思ったが、今の立場を選んだのは自分じゃないか。二人が悪いのではない、こんな感情を持ち合わせてしまった自分が全て悪いのだ。
だから全て抱え込んでしまえばいい。嫉妬や悲しいという感情も、悩みも寂しさも。涙でさえも。誰も傷付かないし気付かない。これでいいと思い込んだ。誰かに助けてほしいという矛盾も抱え込んで。

ルークはそう語った。
俺は絶句した。なんてことだ。親友がこんなになるまで俺は気付けなかったというのか。今の今までのうのうと幸せに浸りながら過ごしてきたというのか。こんなに傷付いてしまうほどに。
ルークがこういうやつだとわかっていたのに。ひとりにするとネガティブな思考に取り付かれ、沈んでいってしまうのだ。そのくせ悩みを相談しようとしない。困った奴なのに、いつも気に掛けていたはずなのに。俺が手を引っ張ってやらなければならなかったのに俺は恋愛に気を取られ、ルークから手を離し、見向きもしなかったのだ。そんな己を軽蔑した。

「ほんと、俺最低だよな。おかしいよな。こんなの軽蔑されたって仕方ないよ。だからガイ、…縁切ってくれたって構わないんだぜ」

ルークが声を震わせながらそんなことを言い出した。何を言っているんだおまえは。縁を切るなんてそんな馬鹿な考え、どうして。

「だって俺、今だってガイに甘えたくて仕方ないんだ。助けてほしくてたまらない。ガイの迷惑になるってわかってるのに、わかってるのに!俺がいない方が…」

「ルーク!!」

俺の怒号にルークは肩を跳ねさせた。
もう耐えられなかったのだ。自分を傷付けてまで俺の幸せを守ろうとするルークが。どうしてそこまで俺を思ってくれるんだ。何故犠牲になるんだ。おまえは我が儘なんかじゃない。邪魔なんかじゃない。いらないことなんてない。俺に必要なんだよ、ルーク。
言いたいことは山程あった。だけどそれを全て飲み込んで、ルークを優しくぎゅっと抱きしめた。

「もういい。もういいんだルーク。つらい思いさせて悪かったな…」

「ガイ…?」

ルークは戸惑い俺の名を呼んだ。そうしてルークが俺の名を呼ぶのも随分久々で、それだけ構ってやれてなかったことを自覚し、罪悪感を抱いた。
俺はルークと目を合わせ、言った。

「もうおまえをひとりになんかさせたりしないよ、ルーク」

「……ガイ…」

「今はまだ信じてもらえないかもしれないけど、誓うよ」

俺が誓うと口にする時は、必ず約束を守るということだ。長年共に過ごしてきたルークならわかっているだろう。
俺は笑顔を浮かべた。ルークが安心感を抱けるように。ルークのためなら俺はいくらでも笑ってやれる。ルークが「おまえの笑顔見るとなんか安心するんだ」と言ってくれたのだから。俺もルークの笑顔を見ると安心感を抱くんだ。おまえと同じなんだ、ルーク。

「ガイ……そっ、か。よかった…ごめん、ありが、と、う…」

そう笑みを浮かべて言ったルークは倒れ込んだ。慌ててルークの身体を支える。ルークの名を呼ぶが返事はない。ルークの額に手を当てると熱があった。ストレス、疲労、体調不良、こいつの生活習慣は狂ってしまっていたのだ。無理もない。傷もまともな手当もされていない。まずは手当をしてやらねば。そう思い、ルークをソファに寝かした。身体にいい食事も作ってやらないと。あまり多くは作らず、今のルークに合った食事を。抱きしめた時に気付いたことだが、ルークは少し痩せていた。いや、窶れていたというべきか。それほどまでにルークを追い詰めてしまった自分に嫌悪感を抱く。しかし今はそんな場合ではないと思い、手当を済ませ料理を作り始めようとした時だった。俺の携帯が鳴ったのだ。誰だろうと思い携帯を見れば、チサからの電話だった。慌てて出るなりチサは「別れよう」と言ってきた。俺はそのことに何も言わず、ただ頷き返事をした。そうしようと。きっとチサも気付いたのだろう。ルークに酷い思いをさせていたと。だから結論を出したのだ。チサは続けて「友達でいてくれる?」と尋ねてきた。そのことにも俺は頷いた。友達でいようと。すると彼女は安心したように笑った。俺も、微かな笑みを浮かべた。そうして俺の恋は幕を閉じた。



「……う…ん…」

「お、ルーク。目が覚めたか?飯、食えるか?作っといたぞ」

ルークは目を擦りながらゆっくりと起き上がった。そんなルークに近寄り額に手を当てる。熱は先程より下がったようだ。よかった。

「飯…吐かない程度に食ってみるよ、ありがとう。それより俺…倒れたのか…」

「ああ、よっぽど疲れが溜まってたんだなあ。おまえ、ちゃんと寝てないだろ。あと頬と腕の切り傷はどうしたんだ?殴られただけじゃあんな傷できないだろ」

そう尋ねるとルークは答えた。最初は気付かなかったがあいつらはナイフを持っていて、それにやられたんだと。それを聞いて俺は血相を変えた。

「ナイフ!?おまえ、どこか刺されたりしてないのか!?」

「だ、大丈夫だよ!ちょっと切られちまっただけで…あいつら、人を刺す度胸なかったんじゃねぇかな、へへ」

ルークはそう言ってへらへらと笑う。そんなルークに俺は腹が立ちげんこつを落とした。ルークは頭を押さえ、痛みで涙を浮かべながら俺を見る。俺は低い声で言った。

「…おまえ、もし刺されてたらどうしてたんだ」

「あ…えっと、それは、その……考えてなかった…」

そう答えて肩を落とすルークを俺は抱きしめた。今度は力強く。ルークはそんな俺の気持ちを感じたのか、謝ってきた。もうそんなことはしないと。心配かけてごめんと。全くルークは俺にいつも心配ばかり掛けやがる。するとルークは俺の肩に顔を埋め、肩を震わせた。肩がじわりじわりと濡れていく。

「はは、なんだルーク?泣くほど怖かったのか?よしよし」

俺はおどけてルークの背中を摩った。するとルークは嗚咽を堪えきれずにさらに泣き出した。こいつは今までどれだけ泣きたい思いをしたのだろう。ひとりで苦悩し、不安感ばかりが心を占めて。ひとりで頬を濡らした日もあったろう。今は、思い切り泣かせてやろう。そう思い、ルークの涙を受け止めた。
しばらくするとルークが落ち着き始めたので、俺はルークの頭を撫でながら、彼女と別れたことを伝えた。するとルークは予想通り、俺のせいだ、俺がもっと精神的に強かったなら、と自責し始めた。そんなことはないと俺は否定した。相談してくれなかったルークも悪いかもしれないが、ルークを放置していた俺も悪いのだから。

「あ、そうだルーク。これ、返すよ」

そう言って俺は映画のチケットを1枚ルークに渡した。この前ルークが俺とチサに渡してくれたものだ。

「え、これ…おまえ、見に行かなかったのか?あれだけ見たい見たいって言ってたじゃん!それにもう1枚はどうしたんだよ」

「もう1枚は俺が持ってるよ、ほら」

そう言って俺はもう1枚のチケットを手にして見せた。チサには渡していないしこのことを話してもいなかった。これはルークのものだから。

「これ、おまえがバイトして貯めたお金で買ったんだろ?両親に頼めば貰える金額をおまえ自身がバイトして稼いで…これはルークと、俺のものだ」

「へ…?」

「だって、俺が見に行きたいって言ったからいつものお礼にって思って買ってくれたんだろ?だからさ、一緒に見に行こうぜ、ルーク」

そうルークの肩に手を乗せて言えば、ぽかんとしていたルークはたちまち笑顔になった。本当に嬉しそうな、眩しいぐらいの笑顔。幸い映画はまだ上映中だ。学校休んででも行こうぜと言うと、ルークは笑いながら頷いた。

「ほら、早く飯食べちまえよ。いっぱい相手してやるからさ!明日も明後日も…ルークが元気になるまではここに泊まるよ」

「え…でもおまえ学校どーすんだよ!」

「そんなの休んじまえば済む話だろー?ルークのお見舞いに行ったら風邪が移ってしまいましたって理由でさ」

「…へへ!そうだな!」

そうして俺たちは笑い合った。
お互いの笑顔を見るとどちらも笑顔になれる。幸せな気持ちになれる。ここにいることができる。だから必要なんだ、おまえが。いなくなったらいられなくなるからだとかそんなことじゃない。理由なんていらないほどに。





必要なひと





久々にクソ長いの書きましたが語彙力低下しとる語彙力ー!うわあー!/(^o^)\
チサは最近のルークを不審に思ってルークのクラスメイトに真相を聞いて、結論を出したということです。悪女じゃないよ!この後ガイとチサは普通の友達として仲良く過ごします。ルークも元に戻ります。ハッピーエンド万歳└(^o^)┘
2012.3.14


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あきゅろす。
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