Yuri × Flynn
闇から射すは一筋の光
ようやくラスト
相変わらずグダグダです
ただ、沈黙が続いた。それは短いような、とてつもなく長いような。
目の前に現れたのはカロルだった。カロルはオレに近寄り、不安げな大きな瞳をこちらに向けたままでいる。
そうだ。ジュディからも聞いていたが、カロルもまたこの騒動で傷付いた一人だ。もとはと言えば動けずにいたカロルをオレが庇ったことにある。カロルの代わりに傷を負ったオレをフレンが庇い、重傷を負ったのだ。
これで何も思わないはずがない。カロルは幼いながらにギルドの首領であり責任感が強い。自分のせいだと責めている様子を想像するのはたやすい。自分が情けなくも動けずにいたせいでフレンは今、生死の境を彷徨っている、責任は自分にあるんだ、と。しかしオレもフレンもカロルを責める気など毛頭ない。仲間を守るのは当然なのだから。
「どうしたカロル。何か用があるんじゃねえのか?」
沈黙を破ったのはオレだった。カロルは顔を俯かせたかと思えば、意を決したようにすぐに顔を上げ口を開いた。
「ユーリっ!あの…!……ごめん…」
「カロルが気にすることじゃねえよ」
安心させるように笑みを浮かべ、オレはカロルの謝罪を一蹴した。するとカロルは複雑な表情をして、再び謝罪の言葉を口にする。
「…うん、ごめんなさい」
「謝る必要もねえって。だからそんな顔すんな」
「…ユーリだって、そんな顔してちゃダメだよ!」
カロルが突然声を張り上げた。
カロルにまでそんな顔、と言われるとは。他の奴らにも言われたがよっぽどひどい顔なのだろうか。よくポーカーフェイスと言われるが、それが崩れているらしい。
カロルが言葉を続ける。
「フレンだって頑張ってるんだよ!フレンが起きたときにユーリがそんな顔だったら、フレンは悲しんじゃうよ…」
カロルはそう言うと顔を歪め俯いてしまった。微かにだが肩が震えている。この数日間ずっと不安だったのだろう。
今思えば、カロルはあの時オレより落ち着いていた。彼はギルドとしての任務を果たすために、ラピード、騎士団と共にあの場に残ると言った。あの時カロルはすでに自分を責めていたのかもしれないが、今はそんな場合ではないと、それから首領としての自覚も強く芽生えていたのだろうか。
カロルは誰よりも成長した。強くなろうとしている。この調子だとギルドは完全に任せられるだろう。
「ありがとな、カロル」
そう礼を言い、俯いたままのカロルの頭をくしゃりと撫でた。するとカロルは顔を上げ、涙で少しばかり滲んだ瞳でにこりと笑った。
「そうだな。好きな奴を悲しませるなんて最低だもんな」
オレが不敵な笑みを浮かべると、カロルは袖で涙を拭き先程とは違う安心したような笑みを浮かべた。そんなオレ達を黙って傍観していたおっさんもまた笑みを浮かべ、オレの肩を叩いた。
「フレンに一番近いユーリが信じてあげなきゃダメだからね!」
「はは、わかってるよ」
そう話しているとラピードが入って来た。どうやらカロルと一緒に来ていたようで、話が終わるまで部屋の外で待っていたらしい。つくづく空気の読める奴だ。
ラピードはオレ達を通り過ぎフレンに近寄ると、彼の顔に擦り寄せた。
「ラピードもなんだか落ち着かない様子だったよ」
「そりゃそうだろうねえ」
フレンもオレ程ではないがラピードと共に過ごしていたのだ。ラピードもまたオレ達の親友なんだ。
その様子を見ているとラピードが振り向き、オレに向かって吠えた。きっとラピードも言っているのだろう。『フレンは目を覚ます』と。そしてラピードはそのまま去って行った。去り際こちらをチラリと見たが、先に戻っているということだろう。
「ラピードってユーリに似て自由気ままだよね」
「ま、飼い主に似るって言うしな」
先程とは違い緊張感のない話をしているとおっさんが背伸びをして声を発した。
「さて、おっさんもそろそろ帰るかな〜」
「あ、僕も!依頼もらったんだった!」
そしておっさんはゆったりと、カロルは慌ただしく部屋の出口へと向かう。オレも行くべきなのかと迷っているとカロルが急に立ち止まり、オレに向かって口を開いた。
「ユーリはフレンの側にいてあげてよ」
「その代わり、フレンが起きたらいっぱい働いてもらうからね!」
そして二人は去って行った。カロルの瞳に、もう迷いはなかった。
「…こりゃしばらくは働きづめだな」
それからまたフレンの手を握り締め、ただ信じて待った。
何度も時計に目を向ける。1分がひどく長く感じた。
オレは一体どれだけの時間をフレンと共に過ごしてきたのだろうか。一緒に遊んで、一緒に眠り、一緒に育った。今では一緒にいる時間は少なくなったが、恋人という関係になり、より一層近くなった。オレにとってもフレンにとっても、お互い唯一無二の存在だ。お互い世界の一部になっているのだ。だからいなくなるなんてことは考えられない。
もうあの笑顔を見ることができなくなるのか?もう言葉を交わすことができないのか。そんなことを想像してしまい味わったことのない恐怖を感じた。そんなことは、ありえない。
「…フレン」
声を絞り出した。それはあまりにも弱々しい声で自分自身も驚いた。こんなにまでオレはダメになってしまうのか。
きっと、フレンもこんな気持ちだったのだろう。実際どんな様子だったかは見ていないが、他の奴らから聞いた様子は容易に想像できる。騎士団長代理という大役を任され、重荷を背負っていた。そんな矢先、オレが行方不明となった。追い討ちをかけたようなものだろう。そして数日前、彼に頼り傷を負わせてしまった。なんて情けないのだろうか。
好きな奴すら守れない自分を恥じる。
「皆、お前を待ってるぞ」
「前にも言ったろ?何度だって呼んでやるって」
「だから、だから早く戻ってこい…!」
何より約束しただろう。幼い頃に交わした約束――。
フレンの髪が日に照らされきらきらと光り輝いている。ふと、フレンの身体が動いた気が――いや、僅かにだが動いた。もしかすると、
「…フレン?」
「…っ…う、ゆーり?」
フレンが、目を覚ました。
「フレン…!!」
「ユーリ…、おはよう」
目の前にはいつもと変わらぬ愛しい彼の柔らかな笑顔が。言葉にならない、言葉にできない喜びで、オレはただフレンを見つめていた。それからしばらく心の中を整理し、オレはようやく安堵の息を漏らし微笑んだ。
「心配かけさせんなよ、バカ」
「開口一番がそれかい?…心配かけさせたことは謝るよ、すまなかった」
フレンはそう言うと、身体を起き上がらせた。
「いや、もういい」
心配をかけさせたことなど、そんなことはもうどうでもよくなった。今こうしてフレンと言葉を交わしている。それだけで十分で、そんな当たり前の行為がとても嬉しかった。感極まって不覚にも泣いてしまいそうだ。オレは思わずフレンを力一杯抱きしめた。
「あー久々の感覚だな…」
「久々って…僕はどれだけ目を覚まさなかったんだ?」
「四日間眠ってたぞ、お前」
そう告げ、オレの腕の中から少し苦しそうにしていたフレンを解放してやる。フレンを見れば大きく目を見開き驚いていた。まさかそこまでとは思っていなかったのだろう。無論それはこちらも同じだったが。
「そうか…思っていたより心配をかけてしまったね…すまない」
「もういいっての。優秀な部下達に感謝しとけよ」
「! そういえば現場はどうなったんだ?!」
そんなフレンの反応を見て、つくづく仕事人間だと思った。その様子が嬉しくもあり悲しくもあり。彼に簡単に説明をすると困ったように笑みを浮かべた。きっと彼らに感謝しつつも申し訳なく思っているのだろう。そんなフレンに再び声を掛ける。
「フレン、もしオレが倒れたとしたら迷惑だと思うか?」
「へ?そんなことは全然思わないよ」
「だろ?そういうことだ」
「あっ……ああ」
フレンに諭すと彼は頷いた。こちらとしては待っている間は苦痛だが、当の本人が目を覚ましてくれれば疲れなんてものはなくなる。だから本人が思っている程迷惑なんてものはかかっていない。フレンにそのことを伝えたかったのだ。
こいつはいつも誰かに迷惑を掛けてしまうことを恐れ、申し訳ない気持ちになる。オレなんて誰かさんに迷惑を掛けてばかりだというのに。
「ユーリ。僕を呼んでたよね?」
「ああ、何度も呼んだ」
「ちゃんと聞こえたよ、君の泣きそうな声」
「泣きそうは余計…でもねえな」
フレンにオレの声は届いていた。
もしたしたらオレはふとした拍子に泣いていたのかもしれない。それほどまでにフレンを失うことを恐れていたのだ。
「君のことだからずっといてくれていたんだろう?自惚れすぎかな」
そう言うとフレンは首を傾げ笑った。彼の問いに頷き口を開く。
「ああ、ずっといたぞ。お前が寂しい思いしねえようにな」
「ユーリが、だろ」
「はは、確かにな」
そう笑い合っているとフレンが小さく声を上げ、思い出したように聴いてきた。
「ユーリ、ギルドの方に行かなくてもいいのかい?」
「うちの首領がフレンが目ェ覚ましたら今までの分働いてもらうってよ」
「あはは、それは大変だね」
フレンの問いに苦笑いしつつ答える。そしてフレンもまたオレの答えに笑いながら答えた。フレンは目覚めたが今日ぐらいは勘弁してくれよ、と思いつつ、またフレンを抱きしめた。
「フレン」
「何だい?」
「よかった」
「うん」
たったそれだけの言葉でお互いの心が通じ合えることに優越感を抱く。お互い特別で必要な存在なのだと。
本当に、よかった。そう思い噛み締めると同時にオレの瞳から何かが零れ落ちた。気付かれてしまわないようにさらにフレンを抱きしめた。フレンもまた、オレの背に腕を回した。
幼い頃に交わした約束――それは、
(ずーっといっしょだって、やくそくしよ!)
(ああ!なにがあってもはなれないってやくそくだ!)
(やぶったりしたら、ゆーりのこときらいになるからね!)
(ぜったいならせねえよ!)
(…やくそくだからね)
(あたりまえだろ?ほら、いくぜ!)
(うんっ!)
あの日のオレはそう言い、彼の手を引いて帰路についた。フレンは昔からなんでもできた。敵わなくて悔しくて、オレは見た目だけでもフレンに勝っていたかった。だから彼の手をずっと引いて歩いたのだ。妙に照れ臭くなって、顔を赤くしていたのを見せないためでもあったが、フレンは気付いていただろう。オレもフレンの顔が真っ赤に染まっていたのを知っている。
この約束を忘れた日など一度もない。それはたかが子供の頃の約束だと、笑う人もいるだろうけど。
闇から射すは一筋の光
それからしばしの療養を経て、フレンは騎士団に復帰した。戦場では彼の凜とした声で指示が出されている。ギルドではユーリがより一層忙しく働いていた。
今日もまた、変わらぬ日々が過ぎていく。
なにものにも代えられない、幸せな日々が。
ようやく終わらせました四部作!
プロット書いてたときは三部作で終わらせる予定だったのに妄想が膨らみまして…無駄に大作になりました
大作と言っても個人的にですが
見直したらグダグダだな!カロル先生いっぱい働いてもらうとか鬼畜!
ユリフレ要素少ないですねごめんなさい
読んでくださりありがとうございました!
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