Yuri × Flynn
三輪の花が咲き誇る
前の続きで二作目
ユーリさんちょっと情けない感じが
弱ってます
あの悪夢のような出来事から2日が経った。フレンは今、目の前で眠っている。
もうあんな思いはしたくないし、させたくもない。
「…フレン」
ぽつりと出した声は静かすぎる部屋に響いた。それはフレンの耳に届くこともなく、虚しさだけが残った。
状況は最悪だった。
フレンが貫かれた時は頭を鈍器で殴られたような衝撃を受けた。思わず叫んだ彼の名前がフレンに聞こえたのか定かではない。
血をばらまきながら地に倒れていく彼の身体。スローモーションに見えた。人は極限の恐怖を味わっているとき、時間の経過を異常に長く感じるという。まさにその通りだった。
倒れ込んだフレンの身体からとめどなく溢れ出る鮮血。みるみるうちにいつもの純白の彼が赤く染められていく。自分の足の痛みなんて気にせず、直ぐさま駆け付けて何度もフレン、フレンと呼び掛けても返事はなく一気に血の気が引いた。もしかしたらこいつは――と、不吉な考えが頭を過ぎった。
オレは上着を脱いで、それをフレンの傷口に必死で押さえ付け止血をしようとした。止まれ止まれ止まれ、――止まってくれ。そう願うしかなかった。
その場にいた騎士の何人かが治癒術をかけたがそんなものでは気休めにもならない。今ここにいるオレ達には治せない。このままではフレンは恐らく、言いたくもないが出血多量で死んでしまう。せめてエステルのところへ行けば。
「ジュディ、バウルを頼む!」
「ええ、わかったわ!」
ジュディが走り去ると同時に、カロルが声を震わせ話し掛けてきた。
「ユーリ、フレンが…!!」
「うろたえんな、こいつは助かる!」
そう言うとカロルはこくりと頷いた。助かるだなんて根拠はない。ただ自分に言い聞かせたかっただけだった。
「ユーリ、行くわよ!」
「ああ!」
ジュディに呼ばれ、フレンを所謂お姫様抱っこで抱え上げると一目散にバウルへと駆け出す。しかし、カロルがその場から動こうとしない。声を掛けても俯いたままでいるカロルの肩を掴み声を荒げた。
「おいカロル!今の状況わかってんのか?!」
「…わかってるよ。だから、僕はここに残る!」
「カロル?!何言ってるの?!」
カロルの言葉にオレは目を見開き、ジュディが珍しく困惑をあらわにした。気が動転しているせいもあり、カロルの話がわからない。一体どうしてこの場に残るというのだろうか。
「あとは騎士団に任せりゃいいだろ!危険なんだぞ!」
「これは僕達凛々の明星が受けた依頼なんだよ?!だから首領の僕は残ってないといけないんだ!」
驚いた。カロルがそこまで考えていただなんて。
そうだ、今回の依頼はギルドが請け負ったものだ。責任は騎士団よりオレ達ギルドにある。だからここを退くわけにはいかない、と。カロルの瞳は強く輝いていた。こいつにも譲れないものがあるのだろう。
カロルの隣にいるラピードが吠える。
「ガウッ!」
「ラピード…お前も残るんだな?」
ラピードは頷くと短剣を構え直した。首領であるカロルだけをこの場に残すわけにはいかないと思ったのだろうか。
「…悪い。カロル、ラピード、頼むぞ」
「うん!フレン、絶対助けてあげてよ!」
「当たり前だろ!」
そう言いカロル達に背を向け再び駆け出していく。カロルとラピードには悪いがフレンを助けるのが先だ。あの2人なら心配はいらないだろう。それに帝国騎士団がいるんだ。すると後ろからその騎士達が声を掛けてきた。
「ユーリ!フレンを頼むぜ!」
「ここは俺らに任せろ!」
「ああ!つーかフレンのことはちゃんと団長って呼べよ!」
同期の騎士達の声が飛び交う。もう、止まるわけにはいかない。
「ユーリ・ローウェル!団長を…フレン団長を頼むぞ!!」
おそらく騎士の中で最もフレンのことを尊敬しているであろう彼女の声が響き渡る。その声にも振り向かず、ただ短く返事をした。
バウルに乗り戦場から遠ざかるが、フレンの出血は治まることはなく、ただひたすら傷口を押さえ続けた。その間、オレの心臓の鼓動が五月蝿いほど聞こえた。そして、己の無力さを肌で感じた。
エステルのもとへ着くないなや、彼女はオレ達を見て顔を真っ青にし、すぐに治癒術を唱えた。しばらくすると、帝国騎士団に属する優秀であろう治癒術士が数名慌ただしく駆け寄ってきた。オレもジュディも、もちろんエステルも呼んだ覚えはなく、今だに戦場で戦っているであろう小隊が手配してくれたのだろう。
そしてフレンは彼らに運ばれて行った。オレはただ立ち尽くすしかなかった。真っ赤に染まった無力な自分の手を見つめて。
そして、冒頭へと戻る。フレンは昏睡状態だ。生と死の狭間を彷徨っている。医務室はあまりにも閑静で、悲しみをより一層深く感じさせた。
やがて、足音が聞こえてきた。
「随分落ち込んでるわね」
急な来訪者はジュディだった。
「そりゃ、オレのせいだからな」
と、自嘲の笑いを浮かべた。
この件はオレの責任なんだ。フレンに庇わせてしまい、重傷を負わせてしまった。不甲斐ない自分に腹が立つ。
「カロルも落ち込んでたわよ。自分のせいで2人が、って」
「カロルにはうまいこと言っといてくれ」
そう言い自分の足に視線を落とした。確かにもとはと言えばカロルを庇い、動けなかったオレをフレンが庇ったせいだ。カロルが責任を感じてしまうのは無理もない。
オレの足も完治はしておらず、歩いていると時折ちくりと痛みが走る程度だ。フレンを送り届けた後、自分の傷のことなどすっかり忘れていたがエステルが気付き、すぐに回復してくれたからだろう。
「…あなたが行方不明だったときのフレンみたいよ、今のユーリ」
ジュディに突然話を振られた。
「オレが?」
「ええ」
そう応えると、ジュディは静かに話し始めた。
気分で浜辺を訪れたとき、そこにフレンが立っていた。フレンはずっと遠くを見つめているようで。話し掛けると驚いたように振り向き、ジュディスに気付くと挨拶を交わした。騎士団長がそんなに油断してはいけないだろうと思うが、彼はそこまで憔悴しきっているのだ。この広大な海に、ユーリがいるかもしれない。そう思うと絶望的だが、ジュディスはユーリのことを信じていた。
「ユーリはしぶといでしょう?それはあなたが一番知ってるはずよ」
その言葉にフレンは頷いた。
「確かにね。僕を諦めてくれないところとか」
フレンはそう言うと柔らかく微笑んだ。だがすぐに悲しげな顔になると、呟くように言葉を口にした。
「それでも…心配だよ。生きてるとは信じているんだけど」
信じているのにユーリが帰って来ない事態に恐れているという矛盾。信じているのに信じることができていなくて、妙な感情で気持ちが悪い。不安がどこかに付き纏うのだ。
フレンはその考えを振り切るかのように首を振った。
「僕はそろそろ戻るよ。騎士団の任務もあるからね」
「あら、女性を置いて行くつもり?」
「いや、送って行くよ。残念だけど途中までしか…」
フレンは申し訳なさそうに顔を少し俯かせた。それが自然と主人に叱られた犬のように見えて、ジュディスは思わず顔を綻ばせた。
「あなたみたいな人が騎士団長をやってるだなんて、嘘みたいね」
するとフレンは困ったように笑い「よく言われるよ」と言い歩き出した。ジュディスも彼についていきながら、彼を見ていて思ったことを口にした。
「悩んでいる顔もいいけれど、笑った方がもっと素敵よ」
「…ありがとう。ジュディスも笑った方がとても綺麗だよ」
フレンはジュディスの言葉に少し照れたように微笑み、フレンの言葉にジュディスも礼を言い微笑んだ。
「その時のフレンみたいに、信じきれてないんでしょう?」
「…その通りだ」
オレはジュディの鋭い読みに苦笑いを浮かべ、フレンの頬を撫でた。
そうだ、オレは信じているのに恐れているんだ。こいつの目が覚めないことに。
「その子は大丈夫よ。強いんでしょう?」
「ああ。オレより強いよ、こいつは」
ジュディの問いに大きく頷いた。
フレンは強い、身体も心も。21歳という若さでの騎士団長。フレンの背中には大きすぎるのではないかと思った。しかしフレンはそんなオレの心配をよそにその肩書きをものともせず進み続けた。とてもじゃないがオレには背負えない。
「じゃあそろそろ失礼するわ。フレンの近くにいてあげてね」
「言われなくてもわかってるよ。ありがとな、ジュディ」
するとジュディはふっと笑い、この場を去って行った。
しばらくすると、再び来訪者が遠慮がちにやって来た。
「……ユーリ。フレンの様子はどうなんです?」
それはフレンの傷を癒してくれていたエステルだった。彼女も忙しい身、だがこうして公務の合間に駆け付けてくれたのだろう。エステルにとってもフレンは特別な存在なのだから。
「まだ眠ってるよ、こいつ」
「そう、ですか…」
エステルは悲しそうに目を伏せた。ただ、沈黙が漂う。
「いつになったら、起きてくれるんだろうな」
重苦しい沈黙を破ったのはオレだった。呟いたように言っただけだが、エステルはそんな無意味な問いに思い出したように口を開いた。
「フレンも、そんなこと言ってました」
エステルの言葉に首を傾げた。オレは倒れたことがないし、一体いつの話なのか。そこで先程のジュディの話を思い出し、もしかしてと言う前にエステルが遮った。
「ユーリがザウデから転落したときです」
オレがザウデから転落、行方不明になったと聞いて、フレンは何度も探し回ったという。騎士団長とあろう者が、感情に流され自分勝手に動いていいものなのかと思ったが。
エステルとフレンはオレが騎士団に所属していたときから親交があり、出会う機会もよくあったと聞いている。フレンは出会う度にひどい顔をしていたという。
たまらずエステルは言った。
「フレン、無理はしないでください」
「わかっています。しかし…言い訳になってしまいますが、身体が動いてしまうんです。自分の感情を優先させてはいけないのに…」
そう言うとフレンは悔しそうな、悲しそうな顔をして握りこぶしを作り、己の身勝手さに腹を立てた。しかし、そのこぶしをエステルが優しく解く。するとフレンは、はっと我に返ったように。
「すみません。こんなことで僕は…情けない」
「情けなくなんてありません。誰だって心配します」
特に、フレンは。
「こんなこと」で済まそうとしているが、とてつもない不安感に襲われただろう。一番の親友であり恋人であるユーリがいなくなってしまったら。
「いつになったら、ユーリは帰ってきてくれるんでしょうね」
フレンは無理に笑顔を作り、ぽつりと言った。その様子を見てエステルの胸がちくりと痛んだ。いつも前向きでしっかりしているフレンはどこに行ってしまったのだろう。強く凜としている空のように碧い瞳が、今は揺らいでしまっている。
エステルがこんな彼を見るのは初めてだった。
「きっと…いえ必ず、ユーリは戻ってきます!」
エステルはただそう言うことしかできなかった。気休めの言葉しか掛けてあげられないなんて。いつも彼に助けてもらっているのに、情けない。彼の力になりたいのに言葉が出ない。
「だからフレン、そんな顔をしないでください」
「…そうですね。申し訳ありません。エステリーゼ様も皆も、同じ気持ちなんですよね」
フレン、違うんです。そんなことを言わせたいんじゃない。私達なんかよりあなたの方がずっと心配して不安なんです。だって一番大切な人が、いなくなったのだから。
「励ましてくださってありがとうございます。おかげで任務に集中できそうです。それでは任務がありますので失礼致します」
フレンはにこやかにそう言うと足早に去って行った。
どんなに凄い治癒術を使っても、彼の心は癒してあげられない。癒してあげられるのは、今ここにいない、ユーリ。
去って行くフレンの背中が、ひどく小さく見えた。
「フレンには、このことはユーリには言わないでほしいって言われたんですけど」
ユーリを見ていて、つい、とエステルは困ったように笑った。
確かにフレンは自分の弱っている姿を滅多に人に見せない。というより見せたくないのだろう。何年間も一緒にいるオレでさえ数えるほどしか見たことがないのだ。フレンのことだから、そんな自分を見てほしくないのだろう。
そう考えていると、足音と共に誰かがエステルを呼ぶ声が聞こえた。
「エステル!騎士の連中が呼んでるわよ!」
「あ、リタ!」
声の主は天才魔導士だった。
「何でも公務の時間が早まったらしいわ」
「そうなんです?じゃあ急がないと…」
「フレンの様子は…ってユーリ…」
リタはオレを見るなり少し驚いたような顔し、そのまま固まった。
「おいリタ、どうした?」
「へ?あ、あんたのそんな顔初めて見たから…」
そう言われて小首を傾げた。そんな顔とはどんな顔だ。オレとしてはいつもと変わりないのだが。
悩んでいるとリタが口を開いた。
「だから不安そうな顔よ!い、いつもみたいに大胆不敵に構えてなさいよ!調子狂うじゃない!」
「…励ましてくれてんだな」
「違っ…!ユーリのその顔があんまり気持ち悪いから、勘違いしないでよね!」
リタは顔を真っ赤に染めてそう言うとオレに背を向けた。これはリタなりの励まし方だ。やはりフレンのことを多少気にかけていたのだろう。
ジュディから聞いたのだが、部屋の前でリタが溜息をついているところを見掛けたらしい。話し掛けると「ただ通り掛かっただけ」と赤面して言い残し立ち去ったとのことだ。
そんな不器用なリタの行動に、エステルと微笑んだ。
「ほらエステル!さっさと行くわよ!」
「あ、はい!」
リタの呼び掛けにエステルが返事をし、リタを追い掛ける。そして部屋を出る直前、エステルがこちらに振り向き口を開いた。
「ユーリ」
「フレンは絶対に、目を覚ましてくれますよ!」
私には、こんなことしか言えないけれど。
彼女の笑顔が、眩しかった。
その日、この部屋に花が咲いた。
強く、華麗に、見惚れるほどに。
三輪の花が咲き誇る
それは、散ることを知らない。
二作目は女の子達からの励まし的な感じで
リタのツンデレ具合がわからん
もうユリフレじゃない気がするぞ!←
なんか質問ありましたら言ってください
長いもんだから自分でもよくわかってないですww
ちなみにフレンが「僕を諦めてくれないところとか」って言ったのは本編ではまだ正式にくっついてないからです
周りは恋人同士だと公認してますけど(笑)
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