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小説
儚雨の花B



「いきます」
露花の一言と共に無数の折り紙が空中に舞い上がり、次々とその数を増やす
雲の増殖。先ほどの鶴を折ったものとは違う、これはただの和紙のようだ

バサバサと露花を中心に渦を巻き
あっという間にその姿をくらました

「そんな事をしても無駄だよ」
雲雀はそれを嘲笑うようにトンファーで堕としていく
その昔闘った氷の城より容易いただの紙切れなど増殖していようが関係ない

「……雲雀様」
紙吹雪の中心から、か細い声が聞こえる

「なに」
「貴方は鬼ごっこと仰っておりましたが…紙は時に刃と化します。恐れ多くも、貴方に傷をつける可能性もございます」
だが主人を思ったこの発言が逆に雲雀のプライドに火をつけてしまった
「へえ…僕に傷を付けられると思ってるの」
露花の忠告を煽り程度に受け取って、咬み殺し甲斐が増したよ とさらに殺気を膨らませた

雲雀の返事に露花は辛そうに続ける
「私は…負ける訳にはいきません」
「僕も 負ける気はないよ」
「ならば、全力で向かうのが礼儀…ですね」
「全力を出さないなら引き出すまで。引き出す前に君が倒れたらそれまでだ」
「…承知致しました」

ゴウッ と中心部からストームが巻き起こり もはや部屋の中は台風の中心部の様だった

「こんなものじゃ、僕は捕まえられない」
「どうでしょうか」

雲雀が強引に中心部への道をこじ開けようとした時 頬に鋭い痛みを感じた

「つ…」
触ると真紅の液体が伝い落ちていた
細く切れたそれは明らかに紙による擦過傷
だが全て躱しているのにいつの間に切れたのか

雲雀はトンファーを手放し 直立した
露花の気配はない 雨の炎で消しているのだろう
そしてこのカラクリもまた……

右腕にチリリと走る痛み
瞬時に切れたところを触れると、微かに折り紙の感触があった

気配を完璧に沈静化させた、見えない紙の刃

「なるほど。おもしろいことをするね」
見えぬ折り紙を指先で弄りながら楽しげに呟いた
「私の炎は全ての気配を消し去ります。例え、貴方でも分からぬほどに。」
「ふうん?そうかな」

互いに宣戦布告をし 雲雀が露花の気配に気付けるか否かの勝負となった

「貴方を捕まえます」
「来なよ」


決戦が始まるかのように彼女を取り巻く風は勢いを増し、まともに前も見れない

雲雀がトンファーを拾い上げ身構えたその時だった

「恭さん!!これは!!」
襖が打ち開かれ絶対に現れてはいけないタイミングで最悪の人が来てしまった

「!! コイツ!!」
突然現れた草壁哲也は舞い散る薄い刃をものともせずに突っ込み、渦を巻いていた風は堰き止められ、行き場を失った折り紙は空を切り畳へと落ちていく

予想外の乱入者に驚き微かに気配を漏らしてしまった露花は結果的に草壁に場所を知らせる事になってしまった

「うおおっ!恭さん危ない!!」
勢いのままに草壁の重い一撃が露花の腹部に叩き込まれた
場所は雲雀のすぐ真横
あと1cmのところまで手が伸びていた

「…っ!」
まともに腹部に入ったパンチに露花は咳込み、そのまま倒れ伏した

「恭さ……ひぃっ!」
雲雀を心配し顔を上げると、そこには不機嫌マックスの雲雀が冷徹な瞳で草壁を見下ろしていた
「君…死にたいの?」
「な……しかし彼女に…」
「僕は彼女とゲームをしていただけさ。それを邪魔したんだ、覚悟しなよ」
「そ…んな……」
草壁からしたら襲われている主人を助けただけなのだが この主人はそれを許さない
特に 自分の戦いを邪魔される事ほど許せないことはないのである

知っていたはずなのに…体が勝手に動いていたのだからしょうがない

夜更け。草壁の悲鳴がこだまし、
そして直後救急車のサイレンが鳴り響いた


邪魔者が居なくなった和室には
草壁によって意識を絶たれた露花と草壁を咬み殺した雲雀だけが残った





衣擦れの音と微かに身じろぐ音
夜はすっかり更けていて館の者もみんな寝入っている時間だ

「………。」
「起きた?」
「……はい…」

そんな中、雲雀はロウソクの明かりのもと書物を読んでいる
露花の上には先ほど雲雀に手渡した上着が掛けられていた

「雲雀様…私はここを去ります」
「なぜ?」
雲雀の間髪入れずに返された質問に露花はゆっくりと身体を起こした
「先ほどの勝負、私は貴方に触れることは叶いませんでした。第一雲雀様は気配を消した私に気づいておいででしょう」
彼女の少し責めるような声に雲雀は愉快そうに口元を緩めた
「勝敗は君が僕に触れるか僕が君に負けを認めさせるかによってのみ決まる。けどね、僕は横槍が入った勝負は決着と認めない」
ロウソクを吹き消し 暗い静寂が訪れる

「君とは今度また決着を付けるよ。敵前逃亡は許さない」
暗さで雲雀の顔は分からないが声には優しげな響きが宿っていた

感謝を伝えようとしたが既に雲雀は姿を消していて 障子の外から「おやすみ」と一言囁かれた

「おやすみ…なさい…。」
小さく返すと、障子に映る黒い影は廊下の奥へと消えていく

露花は疲労でそのまま眠りに落ち
決着はまたいずれに持ち越しとなった


言葉に含まれた裏の意味

───決着が付くまで、離れることを許さない




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あきゅろす。
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