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小説
誰に似たのか


「ちょっ!親父もーいっかい!!お願い!」
「ダメだ、お前さっきからもう一回もう一回って三回もやってんだぞ。そろそろ諦めろ」
「やだ!負けたまんまでいられっかよ!」
「あ”ーーー…じゃあ次で本当に最後だ!分かったな!」
「っしゃあ!オレ先行で行くぜ」

パチン…パチン
白黒の世界がクルクル変わる
あそこに置いたらそっちが取られて
あっちに置いたら……

「だーかーらー、数に惑わされてっから毎回オレに負けんだよ。ほら見ろ角取られたろ」
「あっ!ちょ、そこ待った!」
「待った無し」
パチーン と甲高い音とともに角に置かれる黒い石。盤面は次々と黒く染められていった

「ああ…」
ボードの上を見て絶望する息子の晴人。
そう、息子と興じているのは俗に言うリバーシというものだ。
こういうボードゲームは将来考えるのに役立つと思って小さい頃からやらせている

「ちぇー……また負けた」
「まだまだだな」
「ちょっとぐれー手加減しろっての」
「世の中そう甘くねぇよ。そもそもオレは手加減なんて出来るほど器用じゃねー、柄でもないしな」
息子は真っ黒になった盤面を悔しそうに眺めながら石を片付けていく。


誰に似たのか 超がつくほど負けず嫌い


するとキッチンから紅茶とケーキを持ったハルが隣に座った
「はいはい、子供いじめも程々にしてくださいねー隼人さん」
「なにが子供いじめだ。立派な教育だろ」
「時には自信を持たせることも大事ですよ」
「手加減されてもコイツは嬉しかねーよ」
そうだろ?と息子を見れば真面目な顔をして大きく頷いた
「母さんとやってもつまんねー。毎回オレ勝つし」
「それは晴人君が強いからですよ。ハルだっていつも本気でやってるんですから」
「そーかなぁ」
「まあまあ、とりあえずお紅茶とケーキでも。隼人さんはブラックコーヒー」
「サンキュ」
ハルからコーヒーを受け取ると晴人がそれをじーっと見ていることに気がついた

そして唐突に持っていたコーヒーを指差して言った
「オレもコーヒー飲む」
「お前にゃまだはえーよ」
たかだか7才のガキにブラックのコーヒーは苦すぎる
首を振ったが、晴人は頑として譲らなかった
「飲む!」
「すっごく苦いですよ?あ、お砂糖とかミルクとか…」
「砂糖もミルクもいらねー!そのまんまでいい」
「ええ…」
「まあ、いいんじゃねーか?好きにさせとけば」
こういう年頃は、何でもかんでも背伸びしたがるもんだと身をもって知っている。

オレだって早く大人になりたくて身近にいたシャマルを真似した時期があったから。と諭すとハルは渋々子供用のカップにブラックコーヒーを一口入れる

それを受け取った晴人は初めは勢いよく飲んだのだが、半分を過ぎた頃からペースが落ちていった。
やはり苦すぎたのだろう。顔を顰め、最後らへんは眉間にしわを寄せながら何とか飲みきったという様子だ

カップを置いて晴人はオレの方をチラリと見た
「……なあ親父」
「なんだ」
「なんでこんな苦ぇの飲めんの」
「さぁな。気づいたらブラックが定番になってた」
「なんだよそれ」
「大人になりゃ分かる」
そう、お前はまだ子供だから、子供のうちに大人になろうと精一杯背伸びしろ
そしたら分かる。背伸びしなくったって、いつかは大人になるってことを

そう告げると、晴人はつまらないというように立ち上がった
「……ケチ」
「何とでも言え。まだまだガキなんだから、今はいっぱい遊んで、色んなもの見とけ。お前が思うより世界は広ーんだからな」
「知ってらぁ」

そんで、誰に似たのか 意地っ張り


さすが、オレらの子だよな。




End.




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あきゅろす。
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