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小説
雨の日の特権

ザーザー

今朝から続くこの滝のような轟音
今日は早朝からずっとこの調子で、一年分の雨が降り終わっちゃうんじゃないか なんて考えてしまう
やっぱり私は雨よりも晴れの方が好き
水たまりに長靴で波紋を作るのは嫌いじゃないけど、晴れた日に彼と手を繋いで出かける方がずっと楽しいから。


「はあ〜…これじゃお洗濯もお出かけも何も出来ません〜…」
隼人さんはお仕事で今日の夕方までお留守だし
先ほど取りためていた恋愛ドラマは全部観てしまった

ゆううつ…ゆううつ…あれ?ゆううつってどんな漢字でしたっけ…うーむむむ
あ、思い出しました。憂鬱でしたね

一人でポンと手を叩いてみても、ハルの中では憂鬱という文字がふわふわ居座って
さらに憂鬱な気持ちになってしまう


「ああーもうヒマです!お皿も洗っちゃったし、お家の掃除も終わっちゃったし、とうとうなかなか手の出せなかったお風呂の細かいタイルの掃除まで終わっちゃったんですよ!?」

他に何をすればいいんですかぁ!!

あいにくと眠気も仕事もこれっぽっちもない
こんな時彼がいてくれたら「じゃあどっか車で晴れてるとこ出かけるか?」なんて言ってハルをヒマから連れ出してくれるのに


「はやとさーん…早く帰ってこないとハル干物になっちゃいますよー…」
ゴロゴロと床に転がりながら窓の景色を眺める。
あいかわらずゴウゴウと降り続ける雨は遠くが霞むほどの勢いだ。

そういえば昔、大雨の日はなんか楽しかったっけ。叩きつけるような雨の中を傘一つで出て、傘に雨が当たる音と衝撃をびっくりするほど感じて、最終的には傘をほっぽり出して服をびしょ濡れにして帰ったんだ

ちょっと外に出てみようかな…

そう思って体を起こした時、窓越しに霞む道路の遠くに 待ち焦がれた彼の影を発見した
髪の色はよく確認できないが わりかし高身長で黒いスーツのような姿

間違いない。隼人さんだ!!

慌てて立ち上がったハルは傘を持って家の前に駆け出した


「はやとさー……ん!?」


キキーッと急ブレーキをかけて止まる足。

だって彼は、しっかりがっちり


全身濡れネズミになって歩いてきたのだから





いつもの彼らしからぬ姿にびっくりして傘をさしたまま駆け寄った
頭からつま先までビッショビショ
ああ、いいスーツが台無しです…

「おお、ハルか」
「ハルか、じゃないです!なんでこんなずぶ濡れになっちゃったんですか。貴方今朝折り畳み傘持っていきましたよね!?」
しかもなんでこんな日に徒歩で帰ってきたんです!?

ハルの剣幕に彼は軽く仰け反りながらひょいとハルから傘を取って家へ歩き出した
相合い傘だって水びたしの人が隣じゃロマンチックもへったくれもない。

「あー…傘はな、10代目にお貸ししたんだよ」
「ええ、ツナさんに?」
「ああ。10代目がお車まで戻るのに距離があるらしくてな」
「だったらタクシーとか!」
「サイフ忘れたんだよ、職場に。取りに戻るのも面倒だったし、そう遠くねーから走ってきた」
「はし…っ!?」
近いとはいえ車で10分の距離。それをまさかのランニング!?
最悪です!!

「とりあえず早くお家に入ってください!ハルお風呂沸かしてきます!」
家に入ってすぐ濡れた髪を拭くためのバスタオルを手渡して、手早くお湯をはる
リビングで濡れたスーツを脱ぐ彼は スーツの下まで濡れていて、微かに震えている

ていうか今は10月ですよ?木枯らしピープー吹いている〜な季節なんですよ?
台風が近づいてて雨も風も強いこんな日に…


「…隼人さん時々アホです」
「元祖アホに言われるとはオレもヤキが回ったな」
「もお真面目に聞いてください!」
「きーてるっつーの」
頭の上に無造作に掛けられているタオルを取り上げて、ゴシゴシと彼の髪を拭く。そして指に触れた彼の耳の冷たさに驚いた

「こんな体冷やして…風邪なんか引いたらツナさんもみなさんもハルも心配するんですからね」
「風邪ぐれー2日寝てれば治るって…ケホッ」
「あーほら!風邪じゃないですか!」
「なんでもねーよ。むせただけだ」
「またそんなこと言って…」

見るに見かねたハルはそのまま後ろから彼を抱きしめた
ちょっとでもハルの体温がうつるように
あったまれ〜あったまれ〜と願いをこめながら

「…おいハル。離れろ風邪引くだろ」
まだ濡れてんだから。彼が私を離そうとしてくる
でもそうはいきませんよ
「なに言ってんですかそれを言うなら隼人さんの方ですよ」
「オレはいーんだよ成人男性だから。ちょっとやそっとじゃ風邪なんかひかねーよ」
「女だからっていうのはハラスメントです!」
「るせーオメーが風邪引いたらこっちが迷惑すんだよ!」
「どーいう意味ですかそれ!」
「そりゃ…」

風邪っつーのは別名据え膳病…

ハルの耳が、良からぬ言葉をキャッチしました
「隼人さんのバカァァァァ!!」
思わず持っていたタオルを頭に叩きつけてお風呂に直行した
「っだあ!?なにしやがる!」
後ろでタオルをめくりながら立ち上がる彼は
怒っているというよりむしろ楽しそうに笑っているように見えた。むむむ……いかにも上から目線なのがフラストレーションです
ハルは本当に風邪の心配してあげてるっていうのに!
こっちは怒り心頭です! といつもより強めに足を踏み鳴らしてお風呂の沸き具合を確認しに出た

温度よし、量よし、入浴剤も入れた


いくら隼人さんがいじわる大魔王だったとしても、こっちが意地を張ってお風呂に入れないわけにはいかないし、隼人さんはお仕事だったのだからしょうがない。ここはひとつハルが大人になってあげましょう。

ふう と一息ついて。さっきの憤りを鎮めた
ハルだって大人な女性ですから
「……隼人さーん。お風呂沸きましたからちゃっちゃと入ってあったまってくださーい」
呼びかけると、奥から おー と聞こえてきた
飄々としてるところを見ると反省はしていない模様

もう…とため息をつくハルの横を隼人さんは苦笑いしながら通り過ぎた

そして シャワー派の彼にしては珍しく長風呂で、いつもなら10分も経たずに出てくるのに今日は20分

強がってましたけど、ほんとはかなり寒かったみたいです





「っくしゅ!」
不意に出たくしゃみに自分の身体が冷えていることに気がついた

そういえばさっき隼人さんを出迎えた時、傘は差していたけどなんにも羽織らずに出たっけ…そのあと冷たい隼人さんを抱きしめたから冷えちゃったかもですね

カーディガンでも着ようと振り返ると、そこには湯気を上らせ髪のしんなりした…いかにも風呂上がりの彼がいた

「あがったぜ。」
「珍しく長風呂だったんですね。やっぱり寒かったんでしょ」
「別に。今日は長風呂の気分だったんだ」
薄めのTシャツを着て、下は適当なジャージ。肩にタオルをかけたまま一歩二歩と近づいてきて彼の両腕がゆったりとハルを包み込んだ

あー… 隼人さんあったかい……

思わずすり寄ってしまう
寒い時に熱を求めるのはもう人間の本能だから仕方がない

その様子を見て彼はハルの頬に手を当てて優しく言う

「……やっぱり冷えてやがんな」
「はひ、バレてましたか」
「たりめーだ。肩震えてっからな」
さっきと真逆なこの状況…ううーむなんか悔しい
「うう…ハルもお風呂入ります」
彼の腕を抜けようとするが、なぜか隼人さんはハルを腕に閉じ込めたまま離さない
「あのう隼人さん…ハルもお風呂入りたいんですが…」
この手を離してください〜

もぞもぞと抵抗するがやはり彼の手は頑なにハルを離そうとしない
「元はと言えばオレのせいだからな、手っ取り早く、風邪引かないようにあっためてやる」
「へっ?」
お風呂よりも手っ取り早く暖まる?

顔を上げるとイタズラを仕掛ける前の子供のような目をして、ハルの唇を奪った
お風呂あがりの彼の唇は熱すぎるぐらい暖かくて、次第に熱がハルの唇にうつっていく

「ふは……」
唇だけが妙に熱を持って、それをきっかけに寒いはずの体の芯にふわふわと微熱が漂い始めた


温もりを求めてうつされた熱

まるでハルを焦がすみたいに だんだん大きく包み込むように染められて

いつのまにか同じ体温。


「はやとさん…」
「ん?」
「もしまたツナさんに傘貸したりして、お財布も仕事場に置いてきちゃったような時は」

「ハルがお迎えに行きますから。」


雨の日の特権。
彼女のお迎えと彼の熱


(さてと……どーする?)
(もちろんお風呂です。)


End.
























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あとがき という名の懺悔

なんか10年後率多いなー汗
ほんとは高校生の甘酸っぱいのいっぱい倉庫に眠ってるんですが書きかけという…!
とっとと書きます、はい( ̄▽ ̄)

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あきゅろす。
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