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小説
坊ちゃんと専属医(ss集)



@甘え



ドンドンドンドンドンドンドン!!

医務室のドアを激しく叩く音がして、もしやと思いドアを開けると 案の定この城の主の息子、獄寺隼人がいた

「あー、どした隼人」
見れば自分の膝辺りまでしかない少年は両手をきつく握りしめて肩を震わせて俯いていた
「こ、こここ…」
「こ?」
「こ…ころんだっ!!いたい!!」
泣きじゃくりながら指差す膝は見るも無残に擦りむけていた
「あ〜、いてーなこりゃ。おらそこ座れ」
「うぅ…」
涙を拭きながら椅子に大人しく座る姿は素直に可愛いと思う(いや、別にそーいう趣味はねーけどな)
まだ成長しきってない大きな瞳は 痛くしないでね というオーラを言外に出していた

ま、医者にはそんなの関係ねーけどな

5秒後、容赦のない消毒液の痛みで更に泣き叫ぶ事になり
城中に響き渡ったその悲鳴はメイドの間で事件として語り継がれる事となったのは、言うまでもない


End.


A姉弟



よく晴れた午後。
質のいい豆で淹れたコーヒーを啜りながら新聞を読んでいると、窓の外からキャッキャと楽しそうな声が聞こえてきた

「ふふっ、はやとーこっちよー!」
「ま、まって!早いよ!」
見れば仲睦まじく生垣の間を走り回っている子供が二人
一人はサラリと流した赤毛の少女
もう一人は光を透かす銀髪の少年だ

いろんな修羅場をくぐってきたが、なにも知らず無邪気に遊ぶ彼らを見るのは微笑ましい
窓から出て行って、おじさんも鬼ごっこに入れてもらおうか なんてふざけたことすら浮かんでしまう穏やかな情景だった

フッと微笑み、またコーヒーを一口。

「元気に育てよ。」

今日は良い日だ。


End.


B髪型



「へへーん、どーだシャマル」
「あ?………うわ。まーた真似てやがる」
読んでいた新聞から顔を上げれば自分の前髪と瓜二つの前髪をした隼人少年が自慢げに立っていた

ここ最近彼はとにかく自分の真似をしている。歩き方から喋り方まで、そしてここ数日はとうとう外見まで真似てきた

「おめーなあ、少しは自分のアイデンティティってもんをよー」
「あいで、ん……て?」
「あー、チビには分かんねーな」
「チビじゃねーよ!あ、明日には調べてくる」
バタバタと医務室を後にする少年を見て、まだまだ外見ばかり背伸びしようとして中身が幼いクソガキだと一人ため息をついた

実はこういうところで獄寺の基礎教養や、分からないことがあったらすぐ調べる勤勉さやらが磨かれていたとは………誰も知らない


End.


C外の世界



「シャーマールーーー」

「なあったら」

「ドクターシャマルゥゥゥーー」
「なぁんだようっせーなぁ!」
愛人にノリノリでラブメールを打っているというのに、隣で白衣を握りしめ体を揺らす小さな暴君。
暇な時はいつもこんな感じだ

「オレを外に連れてってくれよ」
「ダーメーだ。だいたいたかだか城の医者が城主の息子を連れ出せる訳ねーだろ」
「オレの意思だからいいじゃんか!」
「大人の世界にはガキには分かんねー圧力ってのがあんだよ。ガマンしろ」
街の子供に比べれば なに不自由ない生活をしているのに、この坊ちゃんの望みは大抵街の子供以下で この小さな世界では何より難題だった

「ヤダね!!シャマルが連れてってくんないんだったら一人で出てくかんな!」
握っていた白衣を手放し背を向けると、ドシンドシンと床を踏み鳴らして歩いて行った
このままでは本気で城から単独で出て行きかねない

そうなるといろいろマズい。

「あ”〜〜、もー面倒くせえなあお前」
「ぅわあっ!」

首根っこを掴んだ状態のまま医務室を後にする
「なっ!なんだよ、どこ連れてく気…」
「まず着替えてこい。一般人っぽい服にな」
このままこの先も外、外と騒がれては堪らないと思い、コッソリ城の外へ連れ出す事にした。
隼人は大喜びで地味な服を選んで、興奮冷めやらぬままになかなか行けない下町への冒険に出た

………のだが、

その後シャマルの趣味で競馬だったりクラブだったりちょっとエッチなところに連れて行かれて、幼い隼人少年のちょっとしたトラウマになったのであった

(これに懲りてもう外に行きてーなんて言わねえこったな)

これもまた優しさ。


End.


D単純

城に居ようがどこに居ようが
女がいないとやる気がしない

というわけで過去に犯した過ちもなんのその。シャマルは毎日のように女を連れて城に戻っていた

門番はすでに事情を心得ているので良いのだが、問題は城に帰るや否や四六時中くっついて回る厄介な坊ちゃんの存在だった

シャマルに抱きつく女を見て
「だれ?」
と首を傾げながら聞いてくるが 素直に「不倫相手でーす」なんて言えるわけがない
と言うわけでいつも使っている常套句を口にする
「あー、妹だ」
「ええっ、こないだも妹連れて来なかった!?」
「あれは5番目の妹だ。こっちは7番目の妹な」
「へー」
素直に納得した隼人は両手の指で妹の数を数えている

時々テキトーな番号を言うと「13番目の妹さんってこの前来なかったっけ?」と生真面目に返されるのでシャマルも気が抜けなかった

変なところで人を疑うことを知らないこの坊ちゃんの将来を少なからず危うく思う夕べであった


End.


E約束



「ケホ…ッ」
「…なあ、ラヴィーナさん」
「!」
城の裏門。隼人の母であるラヴィーナはたったさっき面会を終わらせたところだった

「本当にアイツに言わねーつもりなのか。アンタ、もうそんな長くねーんだろ」
シャマルは、隼人が城に来る前からここに勤めていた。
だから隼人の事情はあらかた知っている
そして、医者として彼女の命がそう長くない事も…

「それでも…いいんです。彼は幸せそうでしたから」
「でもアイツがいつか貴女のことを知ったら…」
「………きっと彼なら乗り越えられます。

……


でももし彼が傷ついて倒れそうになったら」

隼人を守ってやってください


そこには確固たる意志がこもっていた
いや、あるいは遺志だったのかもしれない

シャマルは黙ったまま小さく頷き それを見届けた彼女は元来た道を帰って行った
それが、彼女のシャマルが交わした最期の約束。



F毒

最近彼は忙しい
やたらと開かれるパーティーによって 酔っ払って倒れる人や怪我をする人が絶えない

そして特に大変なのが

「う……うげぇ……」
隼人坊ちゃんだ。
どうやら姉であるビアンキの(ポイズン)クッキーを食べさせられ、それが前衛的な演奏に繋がり回り回って発表会がどんどん増えるという悪循環にはまっているらしい
まさに悲劇だ。

苦しげに唸りながらヨロヨロと手が伸びる
「シャマル〜…これ…トライデントモスキートでどうにかなんない…?ぅぐっ」
「残念だが適応対象年齢に達してねーから無理だな」
「そ…そんな…ふごっ!」
再びベッドに沈んだその顔に濡らした布を乗せ、コイツも苦労してんなーと独りごちた

そんな恐ろしい姉をもった弟を哀れに思う
Dr.シャマルであった

※REBORN小説隠し弾一巻でポイズンを無効化するモスキートがありましたが副作用のせいで使えないという事にしました☆



G力

風がよく通るバルコニー
ここからの眺めは絶景だった
だからタバコを吸うときは決まってここにいる

吐いた紫煙は風に乗って儚く消えゆく
それをただボーッと眺めていると視界の先を一機の紙飛行機が滑っていった

「なんだ隼人。おめーも来たのか」
「なあシャマル。ガキの遊びなんかつまんねー、オレにトライデントモスキート教えてくれよ」
生意気にもまだガキのクセして殺しに興味を持つとはさすがマフィアのボスの息子というべきか青っちょろいというか

「おめーにはこれがお似合いだぜ」
そう言ってダイナマイトを見せたら やつは開口一番「ダセー」と言いやがった

この力、どう使うかはお前次第



G無知

何のために使うか問うたのは少し前

結局やつはロクな事に使わなかった
思い知ったのはやつが他人の命も、自分の命さえも見えてないただのガキだってことだけ

そのすぐ後、城を出て行くと決めた
出て行く寸前隼人は 走ってオレを引きとめようとしてきた

今のやつにはなに一つ分かっていない
命の重さも
他人の思いも
手に持つその力の怖さも
なに一つ。


後ろは振り返らなかった
オレの与えた力がやつを滅ぼすか、守るか
それは…お前次第なんだ、隼人。

彼が自分の命とシャマルの思いに気づくのはそれからずっとずっと後、彼が中学生になった時…



End.



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