「幻想の催眠に溺れたままでいい」
バーテン服の青年の声が、少女の鼓膜を振るわせた。
「目隠しを外しちゃ、面白くないでしょ?」
黒ずくめの青年の声が、少女の鼓膜を振るわせた。続けて、黒ずくめの青年が言った。
「足元ご注意。その手は僕が引くから……その身を今すぐに委ねな。さぁ!」
驚いた少女は、一瞬感じた恐怖に目を覚ました。しかし、そこには暗闇しかなかった。だが、それは違うと気付いた。少女は、自分に目隠しされると気付いたのだ。
そして、誰かに手を引かれているという感覚があった。恐らく、黒ずくめの青年だろう。
沈みかけた意識の中で、少女の耳にかすかに届いた二人の会話。いや……二人が少女に対して呼びかけた言葉。
いつからか、疑念の刃が見え隠れする。少女は疑問に思う。
何故、自分は二人についてきているのか。
何故、自分はこんな事になっているのか。
何故、二人は自分の事を呼んだのか。
これから、自分の身に何が起こるのか……。
あまり良い事は期待出来そうにない。だが、一つだけ言える事がある。
彼らには、愛という免罪符など存在しない、と。
どこにいるかもわからない少女。せめて、目隠しに隙間があれば……。
そう少女が思っていると、足に何か違和感を感じた。そして少女は、大きな音を立てて、盛大にコケた。
「ひゃっ!!?」
「あれっ?大丈夫?」
黒ずくめの青年の声が、心配そうに言った。すぐに助け起こされた。
「あぁ、そっか。俺達は見えてるけど、君は見えないんだよね。目隠ししてるから」
「ちゃんと端に寄せとけよ」
「はいはい」
ガラガラガラ、と渇いた音が響く。どうやら少女が躓いた物を退かしたらしい。音が終わると、再び歩き始めた。
しばらく歩いてから、少女は気付く。目隠しが少しズレているのを。
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