池袋では珍しい、深い深い霧の中。少女は妖艶に響く声を聞いた。
「おいで、おいで。この街の、もっと奥深くまで……」
少女が回りをキョロキョロしていると、別の声が響いた。
「早く早く……急ぎ足で出来るだけ近くに」
「おいでおいで……」
少女は呼び続ける声の方へと歩いていく。しばらくすると、二人の男性が少女の前に現れた。
一人は金髪でサングラスをかけた、バーテン服の青年。
もう一人は、黒髪で黒いコートの眉目秀麗な好青年。
少女を呼んでいたのは、どうやら黒ずくめの方だ。少女を見るなり、薄い笑みを浮かべた。
「さぁ、愉しい遊戯を始めよう」
黒ずくめの青年は少女の背後にまわると、背中を押しながら歩き始めた。二人を先導するかのように、バーテン服の青年も歩き始める。
黒ずくめの青年が言うには、とある館まで歩いていくそうだ。館までの道のりはそこそこかかるらしい。
色々な事を黒ずくめの青年が話していると、今までだんまりしていたバーテン服の青年が突然、話し始めた。
「シナモンスティックを知ってるか?」
「シナモン……スティック……ですか?」
「シナモンスティックは魔法のステッキ。ひとふりするだけでシロップが増える」
そう言うと、バーテン服の青年は、胸ポケットからシナモンスティックを取り出した。バーテン服の青年がそれをひとふりすると、どこからともなくシロップが溢れ出した。
少女が手を差し出すと、シロップがどんどん溜まっていく。一口なめて見ると、苦さと共に甘さも広がる。
「おい……しい……」
「そうか。喜んでもらえてよかった」
バーテン服の青年は柔らかい笑みを浮かべ、シナモンスティックをまたひとふりする。
少女の手にはどんどんシロップが増えていく。少女は次々と増えていくシロップを飲むようになめていく。
苦ささえ忘れて、少女はいつの間にか甘い夢の中に。黒ずくめの青年とバーテン服の青年という天蓋に守られて、少女は眠りに堕ちる。
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