○○でボカロ曲パロ 03 目的の部屋は遠いのか、私たちはまだ歩いていた。音也は私の手を引いて、トキヤはおそらく私の隣を歩いている。 そこそこ歩いているせいか、目隠しがズレてきている。隙間が少しできていた。その隙間から、音也の後ろ姿が見える。彼は片手にランタンを持っていた。薄ぼんやりと前を照らしている。 ちらりと横を見ると予想通りトキヤがいた。彼もランタンを持っている。こちらのランタンも頼りない光で辺りを照らしている。 目隠しの僅かな隙間から周囲をよく観察すると、不気味なものを見付けてしまった。思わず身の毛がよだった。その影は不自然だった。普通の人の影ではなく、化物のような…… 「おやおや?悪い子ですね……。もう見てしまいましたか」 視界にトキヤが映る。その顔は確かにトキヤのものであるはずなのに、表情はどこまでも冷たく、人間にできるとは思えなかった。 「目隠しが解けたなら盲目にする?」 振り向き様に音也が笑顔でとんでもないことを言い出した。盲目?一瞬空耳かと思った。だが、私の手を握っていたはずの彼の手には銀色に光る鋭い凶器が握られていた。 「ほらほら、笑って?可愛いんだからさ」 氷のような笑顔で迫る音也。それは不気味で、異質で、怪奇的で、恐ろしかった。あまりの恐ろしさに悲鳴を上げることさえ忘れていた。 あと数センチ、触れるか触れないかの所で凶器は下ろされた。 「冗談だよ冗談。恐がらせてごめんね」 爽やかな笑顔で音也はそう言った。先程とは違う、いつもの爽やかな笑顔。それが逆に恐かった。まるで、毛皮を被って芝居に戻っているような気がした。 震える私を慰めるかのように、音也が私を抱きしめた。温もりを感じた。人の温もりを。やはり今までのは何かの勘違いだったのだろうか。そう思った時だった。 「……ねぇ、ちょうだい?」 突き刺すような渇いた笑い。感じていたはずの温もりはすでになくなってしまっていた。 ここはおかしい。普通ではない。逃げなきゃ……! 相手がアイドルであろうと関係なかった。音也を突き飛ばし、二人から距離をとった。 「どうしたの?そんな目で身体を震わせて……。暖かいミルクでもてなして欲しいの?」 訳がわからない、と言いたげに音也は首を傾げた。トキヤも、私の行動に疑問を抱いているようだ。 「そうですか。少し寒いですからね。部屋の中に入りましょうか。ここはとても暖かいですよ」 そう言ってトキヤは近くの部屋のドアを開けた。中の暖かい空気が冷たい廊下に流れ出た。本来なら気持ち良いはずのそれに、私は嫌悪感を抱いた。何もかもが出来すぎているこの空間から早く出たかった。 もう帰ります、と言おうとした瞬間、トキヤに手を掴まれた。離してください、と私が言うのを遮るかのようにトキヤは言った。 「見返りはポケットの中身で構いませんから」 その言葉に、私は心当たりが一つだけあった。彼が言った通り、ポケットの中身。それは決して他人に渡してはならないとある人から言われていた。何があっても絶対に渡してはならないと。 何故、二人がこれについて知っているのだろうか?そもそもこれは二人に必要なものではないはず。なのにどうして……。 何の反応も見せない私に痺れをきらしたのか、音也がせがんできた。 「ちょうだいよー、早く早くー。ねぇほら今すぐ!」 画面の向こうにいる彼とは全く違う雰囲気だった。もう別人ではないかと思う程だった。 「二者択一、なんてありませんよ。おとなしくそれを渡してくれればいいのです」 退路はなくなっていた。もう、本当に渡すしかないのだろうか? まやかしでもてなされ、甘い蜜を吸って……。 そういうやり方で何度も、何度も繰り返してきたのだろうか。 「ちょうだい?」 「よこせ」 「ほら」 「今すぐに」 「ちょうだい」 反響する声は誰のものだろうか? その答えを知るのはずっとずっと先のことだろう。 [*前へ][次へ#] [戻る] |