「あの……ここって……」
「露西亜寿司だ。知らねぇのか?」
私達は今、“露西亜寿司”という看板のかかった店の前にいる。
「知らない」
池袋にしょっちゅう来てたわけではない。これから色々店を巡ろうとした時に、折原臨也と平和島静雄の喧嘩に巻き込まれたのだ。
「へぇ……。ってかよ、さっきから思ってたんだが、何でお前ら手ェ繋いでんだ?」
「…………ぁ」
レッドヘアーの男に言われてようやく思い出した。というかすっかり忘れてた。
彼の問い掛けに対し、平和島静雄は特に表情も変えずに
「……何となく、っすかね」
と言った。
「何となくって……」
今の今まで、ちゃっかり手を繋いだまま歩いていた。……何で人目を気にしなかったんだろう。
「昔、俺が高校の時にも居たんすよ。雪華みたいな目をしたガキが」
私みたいって何だよ……。ツッコミたい所だが遠慮しておく。
「今日とは違って、すげぇ雨の中、ガキが傘も差さずに突っ立てたんすよ。こっちが話しかけても黙ったまんまで、正直話しかけるんじゃなかった、って思ったな」
「へぇ……そのガキは男の子だったのか?」
「いや、スカート履いてたんで、女の子だったっすよ」
「そうか……とりあえず中入って、その話を聞くか」
「いや、大した話じゃないっすよ」
「ん?でもちょっと気にならないか?えぇっと……」
「……雪華」
「あぁ、雪華ちゃん。静雄の話、気になるべ?」
「いえ、特に気にならないです」
「そっか……気になったのは俺だけか……」
「そんなに気になりますかね?」
「んー……」
「あの、名前、聞いてないです」
「え?俺のか?」
首を縦に振る。
「そうだったか。俺は田中トムっつぅんだ。会ったのも何かの縁だろうしな」
「オー、トムさーん、シズーオ、久しぶりネ。スシ食いニ来た?」
「!!?」
いきなり、黒人がやってきて、話しかけてきた。板前の衣装を着ているから従業員なのだろうけど、大きいし、日本語怪しいし……第一、店の名前、『露西亜寿司』じゃなかったっけ?
「おっ、サイモンか。久しぶりだな」
「久しぶりネー。シズオと手繋いデル子、シズオの妹?」
「違ぇよ。コイツは雪華っつって、俺の知り合いだ」
「オー、シズオのトモダチ?イイヨー、スシオイシイヨー」
「ねぇ……この人、誰?」
「あぁ、コイツはサイモン。確か、ロシア人だったかな」
「えっ?ロシア人……?」
ロシア人って普通、白人じゃないのか……?
「本人がそう言ってんだから、そうなんじゃねぇの?」
「そういうものなの……?」
「そういうもんだろ」
「三名サマ、ゴアンナーイ」
「ほら、二人とも行くぞ」
サイモンは私達をカウンター席に案内した。お昼時という事もあってか、店の中はそれなりに賑わっている。
席は必然的に、平和島静雄を挟む形となった。握っていた右手を離す。
「ゴ注文ドウゾー」
「二人ともランチセットでいいよな?」
「大丈夫っす」
「はい」
「という事で、ランチ三つな」
「了解イタシマシター。ランチ三つ、お願いネー」
「あいよ」
カウンターの奥の方にいる白人が返事をする。顔といい声といい、歳をとってるというか、なんかそれなりの雰囲気を醸し出している。
そういえば田中トムはろくにメニューも見ず注文していたな……。サイモンとも普通に会話してたし……。
「ここには、よく来るの?」
「またにな。つか、知らなかったんだな」
「初めて見た」
「へぇ……池袋にはそんな来ねぇのか?」
「たまに来るって感じ」
「そうか」
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