「……お腹すいた」
よく考えたら、朝は何も食べていなかった。お財布がないので、どこかで食べるという事もできない。
困った。これは死活問題だ。どうしよう……。できれば人に会いたくないんだよなぁ。
そんな事を思っていると、自販機が目の前を通り過ぎていった。……え?自販機?
次に男が角から走ってきた。中年くらいだろう。呆然としていた私にぶつかった。
「ってめぇ、邪魔してんじゃねぇ!!!」
「……は?」
ぶつかってきたのはそっちでしょうが。そう言ってやってもよかったが、色々と面倒そうなので言わないでおこう。
それでも私の態度が気に入らなかったのか、中年男は勝手にキレた。
「ふっざけてんじゃねぇぞ!!俺は今追われてんだ!!」
だったらさっさと逃げればいいのに……。どうしようか悩んでいると、聞き覚えのある声が、路上に響いた。
「待てっつってんだろうがぁぁぁぁ!!!!」
その怒声と共に、自販機が男に……というかこちらに向かって飛ん で ……
ガシャーーン!!!
……いったー……。
男の巻き添えをくった私。自販機の破壊力、ハンパないな……。幸い、自販機の下敷きにはならなかった。
こんな事をするのは、きっと彼しかいない……。
「あちゃー……伸びちゃってんな、アイツ。ちょっとやり過ぎだな、静雄」
「スイマセン、トムさん……」
「おっと、嬢ちゃん大丈夫か!?」
曲がり角から平和島静雄と、トムと呼ばれたレッドヘアーの男が現れた。
「大丈夫です」
「でも頭から血ィ出てるぞ……?」
「えっ……?」
額を触ってみると、確かに血が出ていた。……今回は平気だと思ったんだけどなぁ。
平和島静雄はようやく、私の存在に気付いたようだ。
「手前は確か……雪華?」
「疑問符付くんですか」
「あぁ、雪華だ。その捻くれ具合は間違いなく雪華だ」
「貴方の中で、私はどういう認識なんでしょうかね……」
溜め息をつき、伸びている男を見る。
「この人、何なんですか?」
「ソイツは金返さねぇ奴だ。イラッとしたから自販機投げちまった」
「そう……」
ご愁傷様です。
「もしかして……また当たったか?」
「この額を見てから言って下さい」
額から流れる血を指差すと、平和島静雄は申し訳なさそうに言った。
「悪ィな……また当てちまって」
全くです。まさかまた貴方の投げた物に当たるとは思わなかった。
「まぁ、静雄には悪気はねぇからよ。治療費ぐらい出すべ」
「悪気がないのは知ってます。あと治療費はいいで……」
いや、ちょっと待てよ。よく考えたら、私お金持ってない……。
「二度も当てちまったし……昼飯奢ろうか?」
揺れ動く私の心。でも、今日はなるべくにんげんと関わりたくない。
「だ、大丈夫です。すぐ治りますし。昼も大丈夫です」
色々面倒事が起こる前にさっさと退さ――
ぐぅぅぅぅ〜……
「……」
「……」
「…………〜!!」
お腹が空気を読まなかった。
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