「……あら?雪華はどうしたの?」
出勤したばかりの波江さんはそう俺に問いかけた。ま、もう日常になりつつある風景だったからね。いないと疑問に思うだろう。
「逃げられた」
「……え?」
「だから、逃げられたんだよ」
「へぇ……意外」
「俺だってビックリしたよ?いきなり怒ってどっか行っちゃったんだもん」
「アンタが原因なんでしょう?」
「まぁ……ね」
波江さんは、もうちょっと上司を労るとかしてくれないのかなぁ……?
「連絡は取れたの?」
「それがさ、どうやら着信拒否されてるみたいなんだ」
「当然といえば当然ね」
「電話は出ないだろうからせめてメールだけでも、ってさっきから送ってるんだけどね」
「それ、ただの迷惑メールじゃない……。たくさん送ったら、むしろ見ないんじゃない?」
「別にどうだっていいんだよ、そこは」
「心配じゃないの?」
「おやおや?もしかして波江さん、雪華の事が心配なの?」
「どういう意味よ」
「弟にしか興味のなかった波江さんが、ついに他人にも興味を持ち始めたのかな、と思って」
「……別に。貴方の相手を私一人でするのは大変だと思っただけよ」
「さりげなく酷い事言うねぇ……」
「そういう貴方はどうなのよ。雪華の事が心配じゃないの?」
「うーん……」
俺は椅子から立ち上がり、窓の外を見つめながら言った。
「心配じゃないよ」
「……そう」
「だってさ、財布もないし携帯だっていつ充電が切れるかわからないんだよ?きっとご飯もまともに食べていないだろうし……。それに絶対に言える事がある」
「何よ、絶対言える事って」
「雪華は、必ず俺の所に戻ってくる、って事」
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